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あの小狼くん襲撃事件の翌日、私は校長先生と相澤先生と炎司さんと何故か分からないが、焦凍くんとの5者面談をする事になった。
正直焦凍くんはあまり関係ないように思えるが、一応私の婚約者という事と、本人の強い希望で出席する事になったのだ。

「婚約者って言っても口だけのもので拘束力なんて無いに等しいのに」
「俺はそんなつもりはないし柚華さんの事ならなんでも知っておきてえ」
「うーん?聞いてくれればいつでも話すよ」

私と焦凍くんは放課後、生徒がそれぞれの活動に勤しんでいる中応接室に向かった。そこで今回の件について話し合うとの事だが炎司さんに言えるのは全て事後報告と私の憶測でしかない。

応接室の扉の前に立ちノックをして入ると既に先生方と炎司さんが揃っていて空間の威圧感に息を呑んだ。

「では、はじめますか」
「そうだね、先ずは先の襲撃事件の事から説明しよう」

校長先生の一言に相澤先生が炎司さんに先日の襲撃事件について簡潔にではあるがわかりやすく報告した。私からも説明していた為炎司さんはその説明を際切ることなく聞いていた。

「次に佐倉、お前が思う狙われた理由を話せ」

相澤先生が私に話を振ったので、頭の中で話を組み立てながら狙われた理由について話した。
今まで一緒に旅をしてきた小狼くんの事、そして恐らくこれから起こる事を。

「先ずは私が狙われた理由から憶測ですが話します。それはお察しかも思いますが、魔力を持っているからです」
「どうして今まで狙われずにいた」
「それはきっと侑子さんのところにいたからだと思います。あれ程の魔力がある人が傍にいれば容易に手出しは出来ないから」

恐らく今までは侑子さんに守られていた。でもそれじゃなんであの時、四月一日くんが大怪我を負った日侑子さんは私が違う世界にいる事に驚かなかったのだろうか。それだけじゃない。四月一日くんだってそうだ。

「なんで2人…」
「柚華さん?」
「あ、いや、何でもない。それでその理由ですが、飛王という男が己の野望を果たす為の材料にする為です」
「その野望とはなんだい?」

校長先生の質問に言葉をつまらせた。これは確証がないただの予想で憶測だけど恐らく飛王がやりたい事は。

「この世の理を壊す事だと思います」
「この世の理と言うのはこの世界にも通用するものなのか?」
「どの世界、どの次元でも関係ありません。生きとし生けるもの全てのモノが関わる事です。ですが飛王が何故壊そうとしているのかまでは分かりません」

そして小狼くんのことについても説明した。
小狼くんと出会った時の事、どんな性格なのか、どうして旅をしているのか。

「話を聞く限り先の襲撃事件の様子とは全く別人のようだな」
「双子とかではないのか?」
「私はあの小狼くんは写身だと考えてます。早い話がクローンですね」

そしてそれはサクラ姫もだ。小狼くんのあのサクラ姫の羽根を集める事だけが第一の行動だけ見ると、一緒に旅をしてきた小狼くんと同じように見える。ただ今回の件でそれが顕著に見えるだけだ。

「写身に本体の小狼くんが心を入れた感じですかね」
「心…」
「結局やってることは同じなんです。サクラ姫の羽根を集める。けれど、心がなくなったから残酷な方法で集めれるようになった」

そして魔力はファイさんから奪ったんだ。

「小狼くんが私を狙った理由は恐らく飛王の命令によるものだと思います」
「お前の目を狙っていたな」
「私の魔力の源は目にあるので、片目を食べただけでもかなりの力が手に入りますよ」

素質があればですが。

「これからも狙われる可能性は」
「恐らく0です」
「どうしてそう言える」
「……そんな予感がするんです」

そう言っても予感なんて不確かなもの信じてくれるわけがなく警備強化で落ち着いてしまった。と言っても魔力に対抗する術を持ってないので、成る可く1人で行動しないように。といった具合だったが。

「USJの時警報がならなかったり生徒の証言によると出入口の扉も無くなっていたそうじゃないか」
「魔力で出来ないことは無いですからね」

今回の事は幾ら警備を高めようとどうにも出来ないものだった。だからといって仕方ないでは済まされないのが辛いところだ。

重たい雰囲気の中炎司さんが何ともないような口調で私に話しかけた。

「柚華、お前の戸籍の事だが調べた所合ったぞ」
「……はい?」
「ただし死亡していたがな」
「…待てよ柚華さんはこの世界の人間で、しかも」
「私死んでるの…?」

予想だにしない炎司さんの一言に一気に頭がキャパオーバーして、思考が停止した。そんな私を構わずに先生方と炎司さんは話を進めていく。

「と言うと、佐倉は何らかの事件に巻き込まれて死亡したということですか?」
「警察によると事故にあったのは両親で、一緒にいたはずの柚華だけが姿を消したらしい。親戚も少なく、7年経っても見つからない為葬儀をしたらしい」
「その間佐倉は違う世界に行っていたと」

思考停止した頭では3人の話についていけず、私よりも先に焦凍くんの頭が動き出したようだった。

「つまりその事故も飛王の仕業かも知れないって事ですよね」
「そうだな。事故に見せかけ邪魔な両親を殺し、佐倉を拉致しようとしたが」
「それよりも先に侑子さんが自分の世界に連れてきた」

それは全部飛王の企みを阻止すると同時に私を守る為。そしてクロウさんがカードを私に渡したのは自分で自分の身を守れるように。

私は本当の両親は死んでしまったけど、それでも今確かに親の愛を感じた。じんわりと胸の奥が暖かくなる。


その後焦凍くんと2人で帰ることになった。炎司さんは事務所にまだ仕事を残しているらしく、夕飯はいらない。と言って事務所に戻って行った。

太陽は沈みかけていて、あたりは仄暗く人気のあまりない道を横並びになって歩いていた。今も尚思考はちゃんと動いてなくふわふわしてる。

「柚華さん大丈夫か?」
「んん」
「大丈夫じゃないな」

先ず私はこの世界の人間だという事に衝撃を受けた。あの慣れ親しんだ世界は私が生まれた世界ではなく、本当の両親は既に他界している。

いろんな感情が交ざりって思考が追いつかない。

隣にいる焦凍くんを見つめるとすぐに目が合った。
身体に微弱な電気が走ったように感じ、口は自然と開き音を出していた。

「私はここにいてもいいのかな」

目の前の焦凍くんは酷く驚いた顔をしたが、すぐにくしゃっと笑い私を引き寄せた。軽い衝撃のあとに焦凍くんの温もりが私を包む。夏服で触れる素肌が熱く、そこから熱が広がっていくような感覚がする。

「いて欲しい。俺は柚華さんにして欲しい」
「うん、うんっ!」

焦凍くんの胸元に顔を埋めて何度も頷いた。その度にぎゅっと力強く抱きしめてくれる焦凍くんにしがみつき、一滴の涙を零した。

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