04




段々と人が多くなってきて、ショッピングモールに近づいて来たことがわかった。前を歩く焦凍くんは会話もなく歩いているけど、時々私の方を見てちゃんとついて来ているのか確認してくれている。優しい人だ。

ショッピングモールの自動ドアを抜けると沢山の人の中に人間とは違う形や色をした人達がいた。コレが異形型個性ってやつなのだろう。

「何を買うんだ?」
「服とか生活必需品ですね。もしどこか用事があるならどこかで待ち合わせしましょうか?」
「いや、いい」

焦凍くんはその場から動かないでどこか1点を見ていた。私が行きたいところについて行くっていうスタンスなんだろう。なるべく迷わないように地図を見ようと辺りを探すとすぐ側の柱に施設内地図を発見した。待っててくださいと一声かけて地図を見に行った。どうやらフロア毎に雑貨やファッション等と分けられているようだ。大変便利で助かる。

そう言えばお昼に待ち合わせだったけど、焦凍くんはご飯学校で食べたのかな?もし食べてなかったら食べてから買い物した方がいいよね。よし、聞こう。

「お昼待ち合わせでしたけど、お昼ご飯は食べたんですか?」
「いや、食ってねえ」
「そしたらどこかで食べませんか?私も食べてないんです」
「なんか食いたいのあるのか?」

今食べたいものは特にない、だけど彼になんでもいいよって言ったら困らせちゃうよね。どうしようか。
焦凍くんに任せるよって言っても困りそうだし。

「焦凍くんの好きな食べ物はなんですか?」
「……そば。温かくないやつ」
「いいですね!そしたらお蕎麦を食べましょうか」

間があったものの、答えてくれた焦凍くんの好きなもの。そこにしようと提案するとコクリと頷いてくれて、施設内に蕎麦屋さんがあるのかもう1度施設内地図に近づこうとすると、焦凍くんは昨日と同じように私の腕を掴まえて阻んだ。

「あっちにある」

焦凍くんが指をさした方を見ると、確にお蕎麦屋さんがあった。ここからは少し遠いところにあってよく見つけたなぁ。と感心してると、焦凍くんは掴んでいた腕を離してお蕎麦屋さんに向かって歩き出した。置いて行かれないように私も早歩きで歩き出した。



お昼時という事で待ち時間があったもののすんなり店内に入ることが出来た。渡されたお品書きを見ると意外とメニューがあってどれにするか迷ってしまう。ここはスタンダードにざるそばにしようか。けど春とはいえまだ少し肌寒い。そう考えると温かいのも捨てがたい。
結局私は温かい山菜そばを、焦凍くんはざるそばを注文した。

そういえば…、この世界に来る前はまだ春になる前だったな。こっちはもう春で季節はどこの世界の日本においても一緒じゃないのかと、どうでもいい事を考えたな。あれも一種の現実逃避ってやつだったんだろうか。
そう言えば、目の前に座る彼はいったい何年生なんだろうか。雄英高校の学生だっていうのは分かっているが、歳を聞いたことはなかったな。

「焦凍くんは何年生なんですか?」
「高一」
「あ、年下だったんですね」

焦凍くんはコクリと頷いた。そうだったのか、確に歳下だと言われれば納得の幼さの残る顔つきだけど、同い年と言われればそれはそれで納得出来る落ち着きがあるが、そうか年下だったのか。私が歳上だとわかった途端に焦凍くんが可愛く見えてきた。歳上の余裕だろうか。

「雄英って学校に行ってるんですよね。どんな授業をしているんですか?」
「午前は普通科の授業をやって、午後はヒーロー基礎学をやっている」

俺はヒーロー科だから他のクラスが何してるかまでは知らねえ。と続けざまに言った。なるほどヒーロー科なるものがあるのか。ヒーローになる為だけの英才教育を受けれるわけか、人気職業故に倍率も高そうだ。
お蕎麦を啜りながら、ヒーローについて考えていると焦凍くんが小さな声でご馳走様でした。と両手を合わせて呟いた。さっきも思ったけど年の割にはお行儀が良くて感心する。あと食べ方が綺麗。
焦凍くんが待たないようにと急いで食べ終えてからお会計をすませた後、本命の買い物をする為に移動した。ちなみに会計は別々で払った。


着回しのできる服を数着買ってある問題に直面した。下着だ。年頃の男子と一緒に買いに行くのもどうかと思う。きっと彼だってお店の前や近くで待つのだって抵抗があるだろう。とにかく買い物をしている間どこかで待つのか相談せねば。

「あの、これから下着を買いに行きたいんですけど…」
「そうか、行くぞ」
「あ、はい」

気にしないタイプだった。普通に付き合ってくれるんだ。知り合って間もない人の買い物に付き合うのだって嫌だろうに、あまりにも縁のないお店にも付き合ってくれるなんて、余程達観しているか、異性に対して興味がないかのどちらかだ。彼の場合は後者だろうな。1つのことに一所懸命でそれ以外は見てこなかったんだろう。そしてそれは今も。そんな感じがする。

お店に着くと焦凍くんは近くの壁に背中を預けてiPhoneを取り出していじり始めた。私はというと、彼の落ち着いた行動についていけず、思わずボケっと見つめてしまった。

…メンタルが強い。
この一言に尽きる。なるべく待たせないように素早く、必要な分を選んで購入してお店を後にした。焦凍くんは私がお店に入る前と同じ場所で同じように立っていた。

「お待たせしました」
「次は何だ」
「日用雑貨ですね。歯ブラシとか」



これからの生活に必要なものを全て購入し終えて私たちは帰路についた。重たいだろうと荷物を半分以上持ってくれた焦凍くんとは来た時と同じように会話なく歩く。
私のこと含め目的以外に興味がないのに優しい気遣いができる。どこかちぐはぐでたまに見せる自身の父親に向ける憎悪の目に危うさを感じる。私が口を挟める問題じゃないのもわかってるから何も言わないでおきたいが、もし万が一彼が壊れてしまいそうになったら私が彼を守ろう。と寂しげな彼の背中を見て何故か強く思った。

「今日は付き合ってくれてありがとうございます」
「あぁ」
「疲れてませんか?」
「大丈夫だ」

私の質問には答えてくれるけど、私に対して何か聞くことはない。それが私と彼の距離だ。決してこの距離が心地いいわけではないが、出会って2日しか経ってないのだから当たり前の距離だ。これからゆっくりと近づけていけばいい。

そんな事を考えていると、前を歩いていた彼は急に歩みを止めて、私の方を振り向いた。
何を考えているのか分からないその瞳からは彼の意思を汲み取ることができない。昨夜はよく見れば考えていることが分かる。なんて思ったが、それはあくまで彼の気が緩んでいる時限定の話だ。今とは状況が違う。

「どうかしましたか?」
「お前は、なんで…俺の前に現れたんだ」

きっと、偶然ですなんて答えは求めていないんだろう。でも私にも何故焦凍くんの前に現れたのかはわからない。何か意味があるのだとしても現時点では何も言えない。

「それは、私にも分からない。…でもいつか意味を見つけられたらいいなって、そう思うよ」
「…変なことを聞いて悪かった」
「そんなことありません」

目をそらして謝る彼に首を振りながら答えると焦凍くんはもう一度私と視線を合わせてくれた。微かに揺らいでいる瞳に胸が切なくなる。

「柚華さん」
「っ、なんですか?」
「俺はあんたとはクソ親父が言ったような関係にはなりたくねえ」

名前を呼んでくれたいかと思ったら拒絶。否、気持ちの吐露をしてくれているんだ。勝手に傷つかないで彼の気持ちを受け止めよう。それが彼に近づく近道になるはずだ。

「でも、あんたはそんな事とは関係なく俺に歩み寄ろうとしてくれた」

これは、初めて彼から私に歩み寄ってくれている瞬間なんだろう。ゆっくりと紡がれる言葉を聞き逃さないようにと真っ直ぐに彼の目を見つめ返す。けど、焦凍くんの口から音を紡がれる事はなかった。彼の言いたいことはわからないけど、私が伝えたい事を伝えたくて今度は私が言葉を発した。

「焦凍くんのペースで私と仲良くしてください」
「…ん」

そう頷くと彼はまた歩き出した。心なしか私の足取はさっきよりも軽くて会話がない帰り道も気まずいなんて思えなくて、今日の出来事は、今日の焦凍のことはこの先忘れないと思えた。

- 5 -
(Top)