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学校帰りの子供たちがまだ遊び足りないと言うかのようにいろんな遊具で遊んだり、追いかけっこをしてるのを横目に私たちはベンチに座り焦凍くんの言葉を待った。
賑やかな声をBGMにして焦凍くんは私を好きだと話してくれた。その言葉にいつまでも答えを先延ばしにしては駄目だと思い、私の想いを言葉にして伝えようと焦凍くんの目を見つめて笑った。

「私もね漸く答えが出たよ」

目の前の焦凍くんは唇を噛締め私の言葉を待つ。何かに耐えるようなでも怯えるような表情にちくりと胸が痛んだ。そんな顔をするくらい私は彼を待たせていたのかと罪悪感に抱かれながらも続きを言葉にする。

「私は、最初いつか自分のいた世界に帰るからと思って自分の気持ちに気が付かないフリをしていた。でもそれでも貴方の、焦凍くんの傍にいたいと思ったの。でも焦凍くんを選んだら元いた世界を捨ててしまう事になるんじゃないかと思いだして……」
「昨日の話か」
「うん、でも私の中ではどうしても焦凍くんの事が手放せなくなってた」

だから、私はどう転んでも焦凍くんの事を選んでいたと思う。だけど私は弱いから、保険がないと動けないから。

「散々悩んでそれでも焦凍くんが私に手を差し伸べてくれたから、だから今気持ちを言葉に出来る。ありがとう、待っててくれて。ありがとう、こんな私を好きになってくれて。ありがとう」

焦凍くんの潤んだ瞳に夕日が差し込みキラリと光る。いつの間にか子供たちの声が聞こえなくなっている事に気が付いた。もうそんな時間なのかと視線を逸らして空を見ると茜色に染まっていた。

「柚華さん。俺はヒーローになりてえと思っている。でもその為には柚華さんの存在が必要だ」

私が何も言わないで黙って聞いていると焦凍くんが更に言葉を並べる。

「だから俺がヒーローになるまで傍にいて欲しい」
「……ヒーローになったら私は用済み?」

焦凍くんの言葉を揶揄すると元々近かった距離が0になり背中には鍛えられてる腕が回り痛いくらいに締め付けられる。私も負けじと抱きしめ返すと焦凍くんは体内に溜めていた息をゆっくりと吐き出した。

「んなわけねえだろ」
「うん…!」

きつく抱きしめられる腕に底なしの安心感を抱き、息を吐き出した。その息が焦凍くんの首にかかってしまったようでびくりと肩を揺らしていたが、私を離す事はなく、焦凍くんが満足するまで抱き合っていた。
気恥しいまま家に帰ろうと手を繋いで歩いている最中に隣を歩く彼がふと私の手首の火傷跡を指で撫でたのでどうしたのかと聞くと悩ましげな顔で私の手首を持ち上げた。

「柚華さんのあのカードじゃこの跡は消せねえのか?」
「…消せるよ。あのカードは過去の出来事、事実や真実以外なら消せるよ」
「消さねえのか?」

足を止めることなく首を横に振り、あの時の事を、体育祭の時の事を思い出しながら薄く残る火傷跡に手を重ねる。

「この傷跡は私が炎司さんと衝突した証だから消したくないなって思ってて」
「証、か」
「…焦凍くんは消して欲しい?その左の火傷跡」

焦凍くんは繋いでいた手を離して、お母さんに負わされた火傷跡を覆うように触れた。僅かに顔を歪ませたが、緩やかに首を横に振り手を離してもう1度左手で私の手を握りなおす。

「いや、いい。俺もこの傷があって今の俺が此処にいるから」
「そうだね」

これから先彼はきっと自分のなりたいヒーローになる為の努力を重ねていく。その為なら何だってするだろう。だから私が彼を守っていこうと思う、彼が無茶をしないように側で見守ってようと、夕日を背に受けて歩く彼の横顔を見てそう思った。


そして、いよいよ始まる林間合宿に気持ちを切り替えて準備を進めた。噂では毎年行っている合宿所でやるとは聞いているが、どんな内容なのかまでは分からなかったから少し不安だ。
それでもあの皆と一緒なら絶対に楽しいに決まってる。

「焦凍くん、林間合宿楽しみだね」
「あぁ、そうだな」

逸る気持ちを胸に抱きながら林間合宿当日を待った私は、合宿があんなにハードだったとは想定していなかったのだ。

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