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隣で楽しそうに黄色い悲鳴をあげていたお茶子ちゃんが出発して少し経った時、ある異変を感じ取り辺りを見回すと奥の森の方から黒煙が上がっている。

なんで煙が…。それにこの焦げ臭い匂い、出火場所が近いの?

「皆1箇所に纏まって動かないで!!」

いち早く違反を感じ取ったマンダレイさんが皆に指示を出すと同時にピクシーボブが何者かによって倒されてしまった。

「飼い猫ちゃんは邪魔ね」

私たちの目の前にはサングラスで性別がよく分かんない元?男性が一人とヒーロー殺しと似たような服装に身を包んでいる男の人がピクシーボブに足をかけて立っている。

「なんで…万全を期したはずじゃ…何で…何で敵(ヴィラン)がいるんだよぉ!!!」

なんで、どうして、そんな言葉だけが頭の中を駆け巡る。ダメだ。私が皆を守らないと!
どんなに答えを求めても今此処に敵がいる現状は変わらないのだから、この状況を打破する方法を考えろ!!

「マンダレイさん!!」
「わかってる!」

マンダレイさんがテレパスで全員に私達の状況を一括送信で教え、緑谷くんがどこかに行こうと飛び出したので、それを止めようと腕を掴むと緑谷くんは必死な顔で洸太くんがっ!と叫んだ。

「洸太くんが秘密基地にいるかもしれないんだ!!」
「緑谷くんは洸太くんの秘密基地を知ってるのね…分かった。10分で帰ってきて。帰ってこなかったら私が探しに行くから」
「わかった!」

緑谷くんを早く洸太くんの所に行かせたいけど、目の前に2人も敵がいたんじゃどうにもならない。

さて、どうする?

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!我ら敵(ヴィラン)連合開闢行動隊!!…この子の頭潰しちゃおうかしら、どうかしら?ねぇどう思う?」
「させぬわこの…っ!」

性別不詳の人が持っている太めの棒のような武器でピクシーボブさんの頭をゴリゴリと磨り潰そうとして、虎さんがそうはさせまいと戦闘態勢を取ったが、敵連合のもう一人が2人の間に入りそれを止めさせる。

「待て待て早まるなマグ姉!虎もだ落ち着け!生殺与奪は全てステインの仰る主張に沿うか否か!!」

ステインの信条にあてられた人なのか。これはチャンスかもしれない。飯田くんはピンチだとして、緑谷くんはステインに生かす価値があると認められている。これなら緑谷くんを洸太くんの所に行かせることが出来るかもしれない。

「ステインにあてられた連中か」
「そして、あぁそう!俺はそうお前君だよメガネくん保須市にてステインの終焉を招いた人物…申し遅れた俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ」

スピナーは背中から何本のも刃物でできた大きな太刀と呼ぶのかも怪しい武器を取り出し私たちに向けて構える。

「何でもいいがな貴様ら…!その倒れてる女…ピクシーボブは最近婚期を気にし始めてなぁ、女の幸せを掴もうって…いい歳して頑張ってたんだよ。そんな女の顔キズモノにして男がヘラヘラ語ってんじゃあないよ」

多少余計な情報が頭に入ってしまったが、虎さんの言う事には全面肯定だ。折角のきれいな顔を傷つけられて跡が残りでもしたらきっと、更に婚期が遅れてしまう。女は若さが命なのだ。結婚も出産も育児も。

「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」
「虎!!指示は出した!他の生徒の安否はラグドールに任せよう。私らは2人で押える!!」

マンダレイさんが飯田くんに引率を任せて飯田くんは皆を連れて行こうとして私は緑谷くんの背中を押した。洸太くんを助けに行くなら今しかない!

「緑谷くん行って!約束した時間までに戻ってきて!」
「わかった!行ってくる」
「何を勝手な行動をしているんだ!」

緑谷くんの腕を掴んで止めようとした飯田くんの腕を掴み、施設に向かって走ると飯田くんから苦情が入る。それを走りながら洸太くんの事を説明すると渋々ながらも納得してくれ、私は飯田くんの腕を話して言葉を重ねた。

「もしあの2人が倒れたらあのスピナーって人は飯田くんを狙うと思う。君はステインが仕留め損ねたヒーローだから」
「あぁ」
「だから施設までは私が貴方達を護衛する。その後緑谷くんを探しに行く」
「それだと佐倉さんが危険なんじゃ…」

確かにそうかもしれないが、一つだけ君たちとは違う処がある。
それは、体育祭に出ているか否かだ。全国的に取り上げられた体育祭に出ていない私は敵連合からしたら今回の奇襲成功の妨げにはなるはず。

「だから私が動く」

しばらく森の中を走り抜けると相澤先生が敵と交戦してる姿が見えたが、敵は相澤先生の捕縛用布によって2つに分断され溶けてぐちゃっと地面に液体が広がった。

「先生今のは…!」
「……中入っとけすぐ戻る」
「…先生報告があります」

飯田くんたちが施設内に入ったことを確認して相澤先生に話しかけると話しながら聞くと言われ、相澤先生に数歩遅れながらも、私たちが出会った敵の特徴、緑谷くんの事を伝えているとすぐ傍の草むらが動き、動きを止める。

「先生!」

草むらからは上半身がボロボロになりながらも背中に洸太くんを乗せて生還した緑谷くんがいた。

「洸太くん!」

洸太くんに傷らしきものはなく彼は無事だったことにホッとして、緑谷くんから洸太くんを預かりぎゅうと抱きしめた。洸太くんは私を叩いたり噛みついたりせずにただその小さい手で抱きしめ返している。

「良かった。よかったよ…無事でよかった…」
「けど、あの人大怪我して…」
「うん、でも洸太くんに怪我がなくて安心したよ。痛いところはない?」

こくりと頷いた洸太くんの頭を撫でて地面に降ろす。マンダレイさんのところに行こうとする緑谷くんを相澤先生が止めて息が詰まるような伝令を託した。

「A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッド名に於いて戦闘を許可する」

これが何を意味するか分からない程子供じゃないつもりだ。この合宿に奇襲をかけてきたってことは生徒が目的。未来のヒーローを早めに潰しておきたいのか、他に目的があるのかはわからない。だけど私たちが命の危機に曝されているのは事実で、交戦せずに逃げるなんて不可能。だから自分の命は自分で守れ。先生はそう言いたいのだろう。

緑谷くんは深く頷くとすぐさまマンダレイさんの所に走って行った。私もそれに続こうと立ち上がると相澤先生にもう一つの指示をもらった。

「敵の目的がわかったらそれを全力で阻止しろ」
「はい」

泣きそうな洸太くんの頭をもう一回撫でて私も走り出すと頭の中にマンダレイさんのテレパスの個性が響いた。それは敵の目的がかっちゃんであるという事だ。かっちゃんって確か爆豪くんの渾名だったよね?という事は私は彼のところに行けばいいんだ。

「封印解除(レリーズ)!」

今日完成したばかりで私が目視できない距離で試したことなんてないけど出来るなら一瞬で爆豪くんのところに行きたい。

「“移(ムーブ)”!」

体が浮く感覚がして、一瞬目を閉じ次に目を開けると目の前には爆豪くんの背中があった。成功した!

「クソデクが何かしたなオイ…戦えっつったり、戦うなっつったりよぉーーーーああ?!」
「爆豪くんそれより私の傍にいて!!」
「ああ?!てめえいつの間に!!」
「肉…」

爆豪くんの怒鳴り声を聞き流し“盾(シールド)”で敵の攻撃を防ぐ。これでいくらか守りやすくなっただろう。残念なのがこの盾は人に合わせて移動しないという事だ。つまり、爆豪くんの動きに対応できない。彼にはこのまま絶対防御の中にいて欲しいのだがそんな簡単にことが進むわけがなく、敵を倒そうと外に出てしまう。

「柚華さんなんでここに」
「話は後!今はこの敵を倒すよ!だから今までのこの敵のデータを教えて」

焦凍くんは端的にそしてわかりやすく敵個性の特徴を教えてくれ、この状況をどう打破するか考えられる。

「ここででけえ火使って燃え移りでもすりゃ、火に囲まれて全員死ぬぞ。わかてん…な…?」
「喋んな。わーっとるわ」
「いや、火使えるかも知んねえ」
「ああ?!どっちだてめぇ!」
「柚華さん!」
「うん」

焦凍くんが気がついたよに爆豪くんや焦凍くんが火を使って燃え移っても私には“水(ウォーティ)”がいるから消すことが出来る。でもそれだと防御が後手に回る。後ろにはガス溜り…。
…水…ガス…。

そうだ、雨だ。

「“雨(レイン)”」

呪文を唱え雨のカードを発動させる。カードからは雲に乗ったピエロの服装をした少女が出てきてあたり一帯に雨を降らせる。

「お願い後ろのガス溜りの上で雨を降らせ続けて」

そう言うと嬉しそうに頷き、後ろの方に移動しながら雨を降らせ続けている。これでガスが雨の重さで地面に落ちる。そうなると多少は呼吸がし易くなるはずだ。もっともあのエリヤに生徒がいないといいのだが。

「これで退路は確保できた」
「自由に暴れられんだなぁ!!」

出来れば暴れて欲しくはないが今は少しでも戦力が欲しい。だから私が2人にいう言葉はこれしかない。

「補佐は任せて!できる限りフォローする」

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