60




冬美さんと協力して普段しないような部屋の掃除をしてると炎司さんの声が聞こえ、部屋に赴くと相澤先生とオールマイト先生が炎司さんに頭を下げて部屋を出てきていた。

炎司さんは頭を下げるオールマイト先生に向かって鼻を鳴らし、用は済んだとばかりに背を向けて奥の方に歩いて行く。そんな炎司さんにオールマイト先生はげんなりと肩を落として轟家に来た時よりも疲れを感じる。

「お疲れ様です」
「あぁ、佐倉少女」
「佐倉、轟は今日はいないのか?」
「いますよ。会いますか?」
「……いや、いい」

相澤先生は微動だにしない表情のまま会うことを断り玄関の方に向けて足を進めた。焦凍くんがどうかしたのだろうか、と聞きたくなったが私が聞いてもしょうがない話だろうし、聞いても答えてくれないだろうという事で聞くことは諦める。

「オールマイト先生はなんだかげんなりしてますね」
「あぁ、お前の所為で後始末が大変だとかなんだとかって言われてしまったよ」
「あぁ…想像できます」

簡単にその場の事が想像出来てしまいくすりと笑いながら玄関まで案内する。靴を履き、2人を外まで見送ろうと私も一緒に玄関を出ると相澤先生が真剣な顔で侑子さんの事を聞いてきた。

「お前の育ての親にも説明をしたいんだが…」
「相澤くん?」
「…侑子さんですね、繋がるかわかんないんですけど電話かけてみますか?」
「あぁ、頼む」

ポケットに入れていたiPhoneを取り出して番号をタップする。と言っても侑子は携帯を持っている所を見たことがないので四月一日くんの携帯にだ。
呼び出し音が何度か鳴り、やっぱり繋がらないのかな。なんて考えていると耳元で四月一日くんの声が聞こえた。

繋がった…!

「もしもし?」
「四月一日くん?久し振り柚華だよ」
「え?電話できるの?っていうか、え?!」
「なんで繋がったんだろう…?」
「なんか侑子さんが電話が鳴ってるって言うんだけど、携帯開いても着信ないから気の所為だって言っても聞かないから試しに押したら…」
「繋がったんだね」

四月一日くんの話で近くに侑子さんがいることが分かったので変わってもらい、侑子さんに学校の先生から話があると言うと、変わりなさいっていつもと変わらない余裕のある落ち着いた声で私に言ったので、その通りに相澤先生に渡すと侑子さんに向かって話し始めた。

「はじめまして、佐倉さんの担任をやっております相澤です。この度私どもの不手際で生徒の皆さんを危険な目に合わせてしまい申し訳ございません」
“前置きはいいわ。それにこの子は何度も命を落とすかもしれない所に送り込んでるもの”
「…今回の件で我々学校は敷地内に寮を建て、全寮制の導入をする事となり、親御さんの許可を頂きたくお電話させて頂きました」
“そう、いいんじゃない?もう柚華は私の手元から離れてるわけだし何をしようが変わらないわ”

相澤先生が呆れたような顔で、はぁ…と相槌をうっていて大変申し訳なく思ってしまう。基本的に侑子さんはぎりぎりまで放置する人なんです。こういう人なんです。
オールマイト先生は何が何だかあまりわかってない様子で私と相澤先生を交互にひっきりなしに見ていた。

「佐倉、ありがとう」
「いえいえ、侑子さんはなんて?」
「好きにさせろと言っていた。信頼されてるんだな」
「可愛い子には旅をさせろみたいなのを地で行ってますからね」
「2人共私を置いていかないでおくれよ」

完全に置いてけぼりのオールマイト先生には悪いが説明するには時間がなさすぎる。苦笑いしつつもiPhoneを返してもらい、門までお見送りに出て車が見えなくなるまで見送り中に入る。玄関には汗を流している焦凍くんが立っていてどうしたのかと話しかける。

「相澤先生達は帰ったのか?」
「うん。お話したかった?」
「……いや」

焦凍くんの顔はあの時の、焦凍くんに会うかと聞いた時の相澤先生と同じ顔をしていた。2人の間に何かあったに違いない。

「何かあったの?」
「いや、…気にしなくてもいい」

そう言われても気になるものは気になる。だけど執拗にここで焦凍くんに問い詰めても彼が口を開いてくれるとは思わない。結局私は相澤先生の時のように諦めるしかないのだった。

家庭訪問のあった日の夜、焦凍くんと私は炎司さんに呼び出された。話の内容は寮の話を許可したから夏休み中に荷物を詰めて学校に送れ。という事で、詳しくは送られたプリントを見ろ。との事だった。


後日荷物をダンボールに入れて学校に送り、私達は制服を着て夏休み中に学校に向かう。校舎から徒歩5分、築3日の寮。ハイツアライアンスが私達の新しい家となった。

久しぶりに見る皆の顔は何も変わってなく、ガスで意識不明だった響香ちゃんや透ちゃんも元気そうで安心した。バタバタしてお見舞いには行けなかったので、その事を2人に謝ると気持ちが嬉しいと言ってくれた。なんていい子達なんだ。

「取り敢えず1年A組無事にまた集まれて何よりだ」

中々許可が出なかったり、予想よりもあっさり許可が出たりと色々各ご家庭であったみたいだが、こうして無事に皆集まれてよかった。

「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」
「……俺もびっくりさ…まぁ、色々あんだろうよ」

色々って何のこと…?

「さて…!これから寮について軽く説明するがその前に一つ」

相澤先生は手を叩き注目を集め、仮免取得について話し始めた。

「当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく」
「そういやあったなそんな話!!」
「色々ありすぎて頭から抜けてたわ…」

確かにそんな話をしていたな…。
周りの人もそんな話があったねなんて合宿前の相澤先生の話を思い出していた。

「大事な話だいいな。轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人はあの晩あの場所へ爆豪救出に赴いた」
「は?」
「え?」

先生の言葉が理解出来なくて思わず声が出た。あの晩あの場所って神野区の事だよね?あの場にあの5人がいたの?なんで?
だけど驚いたのは私だけじゃないようで皆も驚いた顔をしている。

「その様子だと行く素振りは皆も把握していた訳だ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ」

皆も知ってたってどういう事?頭がついていけない。それでも相澤先生は淡々と話を進めていく。

「オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪、耳郎、葉隠、佐倉以外全員除籍処分にしている」
「!?」
「彼の引退によって暫くは混乱が続く…敵連合の出方が読めない以上今、雄英から人を出す訳にはいかないんだ。行った5人は勿論把握しながら止められなかった12人も、理由はどうあれ俺たちの信頼を裏切った事には変わりない。正規の手続きを踏み正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれると有難い」

…敵の動きが読めないから雄英から人を出す訳にはいかないって、それは生徒じゃなくて先生にも当てはまる言葉なんじゃっ!それよりもあの5人が、焦凍くんがあの場に行ったって何?何を考えてたの?!

「以上!さっ!中に入るぞ元気に行こう」

待って先生。頭が混乱して動けない。

この重たい空気に誰一人動けないでいると爆豪くんが上鳴くんを草陰に連れていき、何故かそこから放電が起きてアホっぽい顔になった上鳴くんが出てきた。
彼のその顔に皆が笑い場の雰囲気が柔らかくなり前に進む事ができるようになったが、依然として私の頭の中は混乱したままで、足は動くのに意識だけがあの場所に置き去りになっていた。

中に入り先生に寮内の説明を受けて、各々部屋の荷解きをする為与えられた部屋に籠った。私は2階の角部屋で同じ階に女の子がいない寂しい階に当たってしまった。

「先ずは荷解きからだ。そのあとに考え事をする!」

てきぱきと持ってきた荷物を取り出して設置する。元々持ち物の少ない私はすんなり終わり、あっという間に新しい部屋が出来上がった。

さて、考えますか。

私はベッドを背もたれにしてクッションを抱えながら座る。このクッションは冬美さんが私にくれたものだ。

相澤先生は爆豪くん救出にあの場に5人が行ったと言っていた。それは間違いないんだろう、他の生徒の反応を見ると知っていたようだし。なんで行ったのか、これは私と同じ理由だろう、守れたはずなのに守れなかった。だから助けたい。

その気持ちはわかる、私もそうだった。助けに行ったのは私のエゴだ。爆豪くんは私の助けを望んでなかったと思うし、大して役にも立てなかった。

でも大人に、プロヒーローに何も言わずに子供5人で行くなんて馬鹿げてる。それになんで皆も止めてくれなかったの?
…違う、皆ならきっと止めてる。飯田くんも百ちゃんも止めてるはずだ。なのになんで…。

…いや、もう過ぎたことを考えてもなにも始まらないのだ。これからをどうするべきかを考えた方がずっといい。私がすべき事は一つしかない。説教だ。それが年上としての私に出来ることだ。

- 61 -
(Top)