4階の男子部屋。爆豪くんは先に寝てしまったとの事で切島くんの部屋から回ることになった。
「じゃ切島部屋!!ガンガン行こうぜ!!」
「どーでよいいけどよ、多分女子にはわかんねぇぞ。この男らしさは!!」
そう言いながら見せてくれた部屋は男らしいかはさておきあつくるしい部屋ではある。
「彼氏にやって欲しくない部屋ランキング2位くらいにありそう」
「ホラな」
透ちゃんが容赦ない評価を下し次は障子くんの部屋の番になった。面白いものなどないと言いながらすんなりと部屋の中を見せてくれたが、まず本当に必要最低限の家具しかない。一瞬修行僧か何かの部屋なのかと思ってしまったぐらいだ。
「ミニマリストだったのか」
「まぁ、幼い頃からあまり物欲がなかったからな」
「こういうのに限ってドスケベなんだぜ」
障子くんは峰田くんにだけは言われたくないと思う。
次は5階の瀬呂くんの部屋からだ。部屋の中は以外にも拘りがあるようで、女子勢からの人気も高く本人も、ギャップの男瀬呂くんだよ!と得意気に笑っていた。次は焦凍くんの部屋で中に入ると予想通りの和室だった。
「和室だ!」
「造りが違くね?」
「実家が日本家屋だからよ、フローリングは落ち着かねえ」
「理由はいい!当日即リフォームってどうやったんだお前!」
上鳴くんの質問に暫くは間をおいて一言、頑張った。とだけ答えた焦凍くん。落ち着かないから即日リフォームって流石すぎる。確かに焦凍くんの送る荷物私のに比べて大きかったもんね。
「ねぇねぇ、轟くんってお家もこんな感じの部屋なの?」
「そうだね、大体あんな感じだよ。部屋はもう少し広いんだけどね」
「流石No.2ヒーローの息子金持ちなんかー」
この会話を運悪く上鳴くんに聞かれてしまい、焦凍くんがお互いの部屋を行き来してるのかと問い詰められていたが砂糖くんの部屋で焼かれていたケーキを食べたら落ち着いたのか、美味しそうにケーキを頬張っていた。
「次は女子部屋だな…うまっ」
「って事は私の部屋からか…美味しい」
一旦1階まで降りて女子棟の2階に上がり、部屋を開けるとぞろぞろと入ってきた。
「うわー女子っぽくてちょっと緊張すんな!」
「家にベッドなんかあったか?」
「冬美さんに相談したら買ってくれて…申し訳ない」
一通り見終わり3階に移動して次々と女子部屋を見て回り、投票によって第1回部屋王が決まった。全女子票から砂糖くんが部屋王として決まり、それぞれ解散しようということになった。理由はケーキが美味しかった。という事で男子、特に上鳴くんや峰田くんからはヒーローが贈賄してんじゃねえと文句を付けられていたが本人は嬉しそうに頬を赤らめていた。
「終わったか?寝ていいか?」
「うむ!ケーキを食べたので歯磨きは忘れずにな!」
「終わるまで待ってたんだ」
律儀に付き合っていたのかと焦凍くんを見ていたら、目が合って私の方に歩いて来たがお茶子ちゃんが焦凍くん含め飯田くん、緑谷くん、百ちゃん、切島くんを呼び出した。
「行っておいで」
「あぁ、そのあと話したい」
「…うん」
お茶子ちゃんの背中を追いかけるように歩いていく焦凍くん達を見送りどこに行くのかを窓から見たら6人は外に出てすぐのベンチの前に立っていた梅雨ちゃんと合流した。ここからだと何を話しているのか分からなくて、“抜(スルー)”で皆の死角になる壁からすり抜けて外に出た。
「病院で私が言った事を覚えているかしら?」
落ち込んだような力のない声で顔を俯かせながらゆっくりと涙を堪えるように話し出す。
「心を鬼にして辛い言い方をしたわ」
「梅雨ちゃん…」
「それでも皆言ってしまったと今朝聞いてとてもショックだったの。止めたつもりの不甲斐なさやいろんな嫌な気持ちが溢れて…なんて言っていいか分からなくなって、皆と楽しくお喋り出来そうになかったのよ…でもそれはとても悲しいの」
顔を上げ、涙を流しながらそう訴えた。
「だから…纏まってなくてもちゃんとお話してまた皆と楽しくお喋り出来るようにしたいと思ったの」
「梅雨ちゃんだけじゃないよ、皆すんごい不安で拭い去りたくって、だから部屋王とかやったのもきっとデクくん達の気持ちをわかってたからこそのアレで…だから責めてるんじゃなく、またアレ…なんて言うか…ムズいけど兎に角、また皆で笑って…また頑張っていこうってやつさ」
お茶子ちゃんがガッツポーズを取って梅雨ちゃんの気持ちや、他のクラスの人たちの気持ちを代弁して無理矢理笑って5人を元気付ける。
皆優しい。優しいから怒らない。違う、怒る資格がないから元気づけようとしてるんだ。私も怒る資格なんてないのかもしれないけど、それでも説教しなきゃいけない。例え同じ学生だとしても歳上なんだから、正しい道に導かなきゃいけない。
私は死角から出て皆に近づきながら話しかけた。
「突然ごめん。話聞かせてもらった、黙って聞いてごめんね」
「柚華ちゃん?!」
「佐倉さんなんでここに?」
驚いた顔をした7人にチクリと心を痛めるが、それを気にしないふりをして言葉を選びながら4人に話しかけた。
「まずはね、今回の件について色々棚に上げて怒らせてもらいたいんだけどいいかな?」
「ちょっ、待ってくれよ!佐倉は今回の事件関係ねえだろ」
「…その件についても棚に上げさせてもらうね、先ずは…確認作業から。認識違いで怒るの嫌だから」
言葉を重ねるとどうしようもない焦りや怒りが先走り言葉として出ていきそうになるのを必死に抑えて、ゆっくりと話しかける。
「爆豪くんを救えなかった。だから悔しいから俺達で救いに行く、そう言ったのは切島くんか緑谷くんのどっちかだよね?焦凍くんは行くなら一人で行きそうだもの。残りの2人はストッパーかな?」
「…あぁ、俺が轟と緑谷を誘った」
「だけど佐倉さん!僕だって行こうとしてたんだから同罪だよ!切島くんだけが悪いわけじゃ!」
「俺も行こうと思ってたところに切島から声がかかっただけだ。誘われなかったら俺から誘ってたかも知んねえ」
あっさりと私の予想を認め、その切島くんを庇うように2人が声を上げた。此奴だけが悪いんじゃねぇ、そう言いたいのだ。だけど私は誰も首謀者が知りたいんじゃない。確認作業をしているだけだ。
「大体の生徒が知っていたって事は皆が誰かのお見舞いに来たのかな?そしてその時に話したんだよね?助けに行こうって」
「うん、だけどそれを飯田くんが止めたんだ。その制止を振り切って僕達が八百万さんを誘ってかっちゃんを助けに行こうとした時にストッパーとして飯田くんがついてきてくれたんだ」
なるほど。ならば説教はストッパーの2人からだ。
「飯田くん、百ちゃん…止めるなら徹底的に止めなさい。自分がついているから、いざとなったら2人で止めるからなんてそんな甘い考えでは駄目。貴方は誰かを庇護する立場にないの、される立場なんだから自分達の力を過信しないで!」
「…はい」
2人は強く拳を握り俯かせながら頷いた。拳が震えていて、一瞬私に対して何か言おうとしたがそれを口にする事なく2人とも俯く。
「柚華さん待ってくれ、コイツらは俺達を止めようとしてくれたんだ」
「実際に僕達が飛び出そうとした時にだって!」
「だから何?」
それがなんだと言うのだ。そう言うと3人は目を見張り、言葉を詰まらせた。それに対して飯田くんと百ちゃんは声をかけた。
「いいんだ。実際あの時ちゃんと止めていればよかったんだ」
「そうですわね。申し訳ありません柚華さん」
「ちゃんと反省してね…同じ過ちを繰り返さない為にも」
私よりも背が高い百ちゃんの頬に手をあてて滑りのいい肌を指の腹を使ってするりと撫でる。百ちゃんは私の手に自分の手を重ねて1粒の涙を零した。
「百ちゃん達に怪我がなくてよかった」
「はい…っ」
頬から手を離して緑谷くん達の方を見ると3人とも肩が一瞬震えた。罪悪感なのか、怒られてる現状になのかは分からなかった。
「あー、佐倉…俺達も悪かったよ」
「かっちゃんを救いたいって気持ちが先行して…」
「悪かった」
3人は頭を下げて謝る。だけど私は謝罪を求めているんじゃない。
「はぁ…3人とも顔を上げて」
3人は顔を上げて恐る恐ると私の顔を見る。私はにっこりと笑うと3人もぎこちなく笑い返してくれた。焦凍くんなんかは無表情のままだったが。
「歯、食いしばってね」
「は?…いっ!!!」
「っ!!」
思いっきり平手打ちを3人の頬にあてる。私の手もひりひりするがそれ以上に3人の右頬は痛いだろう。
「柚華ちゃん?!なにして…」
「平手打ち」
「いや、そうなんやけど…何もそこまでせんでも」
お茶子ちゃんが梅雨ちゃんの側を離れて3人に駆け寄り大丈夫かと声をかけた。
「大丈夫だけど…」
緑谷くんは自分の頬に手を当て私の目を真っ直ぐに見た。どうして、なんで?そんな感情がありありと分かる瞳にどうしようもなく悲しくなる。
「あのね、どうして行こうとしたの?助けられずに悔しかったから?自分は何も出来なかったから?ヒーロー志望だがら?それとも単なるお人好しかな?」
口を挟む事を許す間もなくたたみかけるように話を続ける。
「どれだって君たちの行動の理由にはならないよ。なんで他のクラスの人が行かなかったかわかる?どうして2人が止めたかわかる?それは怖かったからでも怖気ついたからでもなく、自分達の手に負えない事だって理解していたからだよ」
「言っちゃ悪いが、その位の理解なら俺だってして…」
「ちゃんとしてないから行ったんでしょ?理解っていうのは自分を守る為でもあるんだよ。実際行ってどうだった?死ぬんじゃないかって思わなかった?」
3人、いや5人は実際にそう思ったんだろう。目線を逸らしてまた俯いたのが証拠だ。
「百ちゃん達にも言ったけど、自分の力を過信しないで、悔しいとか助けたいって気持ちだけで動かないで。貴方達には庇護される立場にあるんだから」
例え君たちの活躍で爆豪くんを救出できたとしてもそれは結果論の話だ。もしかしたら誰かの命を失っていたのかもしれないのだから。
「救いたい。力になりたい。その気持ちはとても大事だと思うし、その気持ちのまま行動できる人は少ないと思う、だからそんな気持ちを持って行動できる貴方達には生きて欲しいよ」
切島くんと緑谷くんの頭を撫でると2人はぱっと顔を上げた。その瞳には涙を潤ませていて少し言いすぎたのかもしれないと思ったが、これでもまだ言い足りない方だから謝らないことにした。
「すまねぇ、俺色んな人に迷惑かけちまった」
「わかってくれればいいのよ」
「これからはちゃんと考えて動くよ」
「あぁ」
こうして私達の、皆が待ち望んだ日常が戻ってきた。立派なヒーローを目指して切磋琢磨するあの日常に。
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