夏休み中のホームルームの時に相澤先生は両手を教卓に置いて仮免について話してくれた。
「昨日話していた通り、まずは仮免取得が当面の目標だ」
「はい!」
「ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然取得の為の試験はとても厳しい、仮免といえどその合格率は毎年5割を切る」
毎年5割を切るって相当キツい。雄英以外にも沢山ヒーロー科の生徒が来るわけだし。
「仮免でそんなにキツイのかよ」
「そこで今日から君らには1人最低でも2つ…」
相澤先生が人差し指をくいっと合図すると教室の扉が開き、ミッドナイト先生、セメントス先生、エクトプラズム先生が入ってきた。
「必殺技を作ってもらう!!」
「学校ぽくってそれでいてヒーローっぽいのきたー!!!」
教室の彼方此方から歓声が上がり、何人かの生徒は立ち上がり教卓に並んだ先生が何をするのかを今か今かと待っている。
「必殺!コレスナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ」
「その身に染みつかせた型・技は他の追随を許さない。戦闘とは如何に自分の得意を押し付けるか」
「技は己を象徴する!今日日必殺技を持たないヒーローなど絶滅危惧種よ!」
「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え体育館γ(ガンマ)に集合だ」
私達は戦闘服に着替えて指定された体育館γ。通称トレーニングの台所ランド、略してTDLに向かった。流石にこの略し方は色んなところから苦情が来そうだが学校としてはいいのだろうか。
体育館γに着くとセメントス先生が何かを作りながらこの施設の説明をしてくれた。
「ここは俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意出来る。台所ってのはそういう意味だよ」
「なーる」
「質問をお許しください!!何故仮免許の取得に必殺技が必要なのか意図をお聞かせ願います!!」
熱く燃えたぎっている飯田くんが相澤先生に質問すると相澤先生は順を追って説明すると冷静な態度で落ち着くように飯田くんを諭す。
「ヒーローとは事件・事故・天災・人災…あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる」
それはもう痛いほどに分かっている。あの時の人災は今でも脳裏に焼き付いて離れない。
「情報力・判断力・機動力・戦闘力他にもコミニュケーション能力・魅力統率力等多くの適性を毎年違う試験内容で試される」
戦闘力はもう発現した個性次第で変わってしまうが、それでもヒーローを目指す上でそこも何かでカバーしろってことなんだろうか。
「その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし!技の有無は合否に大きく影響する」
「状況に左右される事なく安定行動を取れれば、そらは高い戦闘力を有していることになる」
と言うと攻撃的な戦闘力も大事だけど、先生達の言っていた必殺技は何もそれに限ったことじゃないという事か。
「中断されてしまった合宿での個性伸ばしは…この必殺技を作り上げる為のプロセスだった」
「!!」
「つまりこらから後期始業まで…残り十日余りの夏休みは個性を伸ばしつつ、必殺技を編み出す圧縮訓練となる!!」
セメントス先生が地形を作り、エクトプラズム先生が分身を生み出し、あっという間に訓練場が出来上がった。
圧巻。まさにその一言に尽きる。
「尚、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ…準備はいいか?」
「ワクワクしてきた!!!」
ワクワク出来ない…。必殺技って何?私に何が出来るの?周りの生徒は自分合う地形に飛び出し各々が必殺技の取得や個性を伸ばそうと頑張っている中、私と緑谷くんはその場にぽつんと立っていた。
「佐倉さん?」
「あー、必殺技って難しいよね…これさえあれば大丈夫ってものは私にとってこのカード達だし」
私にとっての必殺技ってなんなんだろう。個性を伸ばすと言ってもカードに魔力を与えるだけでカード達は強くなってくれるし、今は不便なカードがない。これは困った。
エクトプラズム先生に声をかけられた緑谷くんを尻目に鍵を杖に戻して“飛(フライ)”で天井付近まで飛び上がり、皆をお手本にしようと旋回する。
尾白くんはひたすらにエクトプラズム先生と取っ組み合いをしているし、三奈ちゃんは先生に指導されながら方向性を定めている。それに一際凄いのが爆豪くんだ。元来の頭の良さ戦闘センスが際立って凄いのに更に努力をして磨きをかけている。
焦凍くんだって元々の個性や培ってきた戦闘センスは負けてない。が、左の炎は最近使い始めたばかりでまだまだコントロールが出来てない。氷と炎を同時に出す特訓をしているがいまいち炎の出が悪い。
だけどそれもクリアしてしまえば彼はきっともっと強くなる。
「なんかどんどん遠くなっていくな…」
ポツリともらした声は誰にも拾われることなく、空気と触れて消えていった。
いつまでも旋回していても何も起こらないので適当な所に降りようと、いい場所がないか探していると焦凍くんと目が合い、反射的に笑うと驚いた顔をされた。
え?驚くほどに私の笑った顔気持ち悪かったの?
「柚華さん…」
焦凍くんに名前を呼ばれて飛んだまま近づくと、剥き出しの氷が炎で溶けて水になっている場所のあり、足場は悪く汚れてしまうので差し延ばされた手を取るも着地しないまま中途半端に浮く状態に落ち着いた。
「すごい頑張ってるね。同時に使えるように練習してるの?」
「あぁ、柚華さんも何かやってると思ってたから…」
成程ね、それで驚いた顔をしていたわけだ。
「うーん、何をしていいかわからなくて…必殺技って言われても私はこのカード以外はよく知らないし」
「ある意味チート能力だけど、伸ばすって面だと限界がすぐそこなのか」
「そうだね。何か先生にアドバイスもらってくるからもう行くね」
これ以上邪魔しないようにと私から手を離すと、惜しむように手を離された。焦凍くんに背を向ける形で飛び、緑谷くんの所に降り立つとオールマイト先生が何かアドバイスをしていて、私も何かアドバイスをもらおうと話しかけるより先に違う生徒の所に行ってしまった。
タイミング合わなかったな。
オールマイト先生の後ろポケットにはすごいバカでも先生になれると書かれた本が入っていた。
私も頑張ろう…。
「緑谷くん、オールマイト先生になんてアドバイスもらったの?」
「え?!あっ!えっと、僕とオールマイト、先生って個性似てるから僕はそれを手本にしてたんだけど、君はまだ私に倣おうとしているって」
「確かに2人とも超パワーだもんね」
似たような個性っていうか、全く同じ様な気もするけど、本人達が似たようなって言ってるんだからきっと違うんだろう。
例え同じだとしても私には関係の無いことだが。
「あと、コスチュームの改良の事なら校舎一階の開発工房に行くようにって…僕はこの後行こうと思うんだけど」
「私も行こうかな」
緑谷くんは笑って頷いてくれ、授業終了のチャイムが鳴った。相澤先生は解散と合図をかけて各自解散した。私達は開発工房に足を向けた。
「緑谷くんは戦闘服変えるの?」
「変えるというか改良しようと思って」
「改良かー」
改良もありかもしれない。もう少し戦闘向きにしてもらおうかな…。あ、でもこれスカート脱げば下はホットパンツで動きやすいんだった。改良の意味もなかった…。
工房の前に立ち重たそうな扉に手をかけるとお茶子ちゃん達の声が聞こえてきた。
「あれ!デクくん達だ!いないと思ったらデクくん達もコス改良!?」
「あ、うららかさ…」
緑谷くんが開けようとしていた扉が爆風と共に吹き飛ばされて、私と緑谷くんはそれを避けることが出来ずに吹き飛ばされた。緑谷くんに手を伸ばし守ろうとするが間に合わず何も掴めないまま背中を打ち咳き込んだ。
「ゲホッゲホッ…お前なぁあ…思いついたもの何でもかんでも組むんじゃないよ…」
「フフフフ失敗は発明の母ですよパワーローダー先生。かのトーマス・エジソンが仰ってます。作ったのもが計画通りに機能しないからと言ってそれが無駄とは限らない…」
「今そういう話をしてるんじゃないんだよぉお…!一度でいいから話を聞きなさい…発目!!」
名前に反応して目を開けると私は廊下で寝そべっていてお腹のあたりに緑谷くんの頭があり、その上に一人の女の子が乗っかっていた。
- 65 -
← (
Top)
→