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「あんたと同着とは…」
「お前は救護所の避難を手伝ったらどうだ。個性的にも適任だろ。こっちは俺がやる」

焦凍くんの挑発とも取れる言葉に夜嵐くんが更に顔を歪ませる。イラつきながらも夜嵐くんはギャングオルカに向けて風を放つが、それと同時に焦凍くんが炎を出した為に風が浮き、焦凍くんの炎も風に流されて吹き飛ばされてしまった。

あぁ、最悪だ。

まさにこの一言に尽きる。タイミングがまるで合ってない。いや、それどころか過去の出来事をお互いに引っ張って張り合っているから、敵を前にしているのに意識がそっちに向いてない。

「なんで炎だ!熱で風が浮くんだよ!!」
「さっき氷結を防がれたからだ。お前が合わせてきたんじゃねえのか?俺の炎だって風で飛ばされた」
「あんたが手柄を渡さないように合わせたんだ!」
「は?誰がそんな事するかよ」
「するね!だってあんたはあのエンデヴァーの息子だ!!」

これはもう2人とも落ちたな。敵の眼前で言い合いなんて論外だ。
今すぐにでも説教をしに行きたい衝動に駆られるが、私が今ここを離れるとまだ奥に避難できてない人達の守り手が薄くなってしまう。それだけはダメだ。それに啀み合っている理由を知らない私が口を挟むのもお門違いだ。

焦凍くんと夜嵐くんはまた炎と風を同じタイミングでだしてしまい、焦凍くんの炎が風で痺れて動けない真堂くんの方に流されてしまった。

「真堂くん!」

真堂くんに風で流された炎が当たる前に緑谷くんが無理矢理真堂くんの戦闘服を掴み、救護所の方に飛んできてくれた。

「何をしてんだよ!!」
「真堂くん!体は無事?!」

緑谷くんから真堂くんを受け取り、火傷がないか確認するが、それらしきものは何もなくただ、ギャングオルカの攻撃でまだ体が思うように動かないだけのようだった。

焦凍くんと夜嵐くんがセメントガンを着弾してしまい、焦凍くんに至ってはギャングオルカに捕まれて身動きが取れなくなってしまったのをいい事に、部下達が避難を開始してる人達に向かって走り出す。

「どいてろ」

真堂くんは地面を揺らして部下達の足どめをしてくれた。

「オルカの超音波で動けないんじゃ!」
「まぁ、ちょっとだいぶ末端は痺れてるよね。音波も振動ってなわけで個性柄揺れには多少耐性があるんだよ。そんな感じで騙し討ちも狙ってたんだよね!それをあの1年2人がよぉー!!」

緑谷くんの質問に軽くキレ気味で答えた真堂くんは控室で垣間見られた腹黒さがここに来て隠すことなくさらけ出されている。

「足は止めたぞ!奴らを行動不能にしろ!手分けして残りの傷病者を避難させるんだ!」
「どうしても運べない重傷者がいるなら私が守ります!!」

本当は奥に連れていった方が良いに決まっているが、運ぶ事で症状が悪化するのなら、私が“盾(シールド)”を張った方が安全だ。

「なんか策があんのか?」
「私の絶対防御ならどんな攻撃からも守れる!」

真堂くんを抱えながら救護所に連れて行くと、三奈ちゃんが申し訳なさそうな顔をして近付いてきた。
床には寝そべったまま浅く呼吸をしているの重傷者が何人かいて、運べないのだと理解した。

「柚華ちゃんごめん!頼んでもいい?」
「勿論任せてよ!“盾(シールド)”!」
「ありがとう!じゃぁ私も行くね!」

もう1度救護所を覆うように“盾(シールド)”をはる。
部下達のセメントガンも、焦凍くんの炎も夜嵐くんの風もこの盾を壊すことは出来ない。

「はっ、これがあの神野事件の時に被害を最小限に抑えたっていう盾か」
「私の持ってるカードで1番の防御力を誇るよ。この盾を破られたことは1度もない」

でも、今は防戦だけじゃダメだ。目の前の敵を制圧しないと!

「風よ、戒めの鎖となれ“風(ウィンディー)”!」

盾の周りにいた敵や、焦凍くんを狙っていた敵を風が一纏めにして拘束し、身動きを取れなくさせる。これで少しでも2人がギャングオルカに集中して攻撃できればいい、と思い炎と風でできた竜巻を見るが、ギャングオルカがそれを超音波で薙ぎ払い消し去ってしまう。

「で?それで?」

いかにも悪そうに、見下すように力尽きて横たわっている焦凍くんと夜嵐くんを見て笑うギャングオルカに緑谷くんが強烈な蹴りを入れながら叫ぶ。

「2人から離れてください!!」

だが、その蹴りも簡単にギャングオルカに防がれてしまう。緑谷くんが注意を引き付けている間に2人を避難させようと思って“移(ムーブ)”を使って近づくが、焦凍くんの側に行きたかったのに少し離れた場所に着地してしまった。

何かがおかしい。

違和感が体を巡るがそんな事を考え暇はなく走って焦凍くんに近づくと試験終了の合図がアナウンスで鳴り響いた。

「えー、只今を持ちまして配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。誠に勝手では御座いますが、これにて仮免試験全工程終了となります」
「終わった…の?」

焦凍くんの腕を肩にかけて起こしながらそう呟くと、焦凍くんは悔しそうに言葉短く口にした。

「あぁ」

合否は集計の後に出るのでその間に着替えや傷の手当をしてくださいと、続けてアナウンスが流れたので、焦凍くんと夜嵐くんに付いたセメントを“消(イレイズ)”で消して、医務室に行ってもらった。

怪我をしていない私達はこのまま更衣室に行き着替えを済まして、競技場外の広場に集まった。

「こういう時間いっちばんヤダ」
「わかる。すごくわかる」

響香ちゃんの言葉に百ちゃんやお茶子ちゃん、峰田くんもわかると同意する。すぐにでも合否を知りたい、そんな気持ちが心臓の鼓動を早くさせる。

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