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その日の晩電話しても誰も出ず、たまたま誰も家にいないのだろうと結論つけた。それよりも怪我をして帰ってくる焦凍くんの手当てをして、お義母さんの様子を報告すると彼は少しだけ口角を上げて笑った。

「ありがとう柚華さん。助かった」
「ううん、私も会えて嬉しかった」

ソファに座り、隣に座る焦凍くんの腕を取りその腕に包帯を巻きつける。絆創膏でも間に合うのだが張っている箇所が多くて包帯で補強しないと、すぐ剥がれてしまいそうだ。

それにしても、どんな講習をしたらこんなに傷をつけて帰ってくるんだろうか。

焦凍くんの手当を終えて次は爆豪くんのをと思い腰を上げ、救急箱を持ち爆豪くんのところに行こうと姿を探すが、見当たらなくて仲の良い切島くんに場所を聞くと早々に自室に戻ったと言われ、部屋まで押しかけて手当するのもお門違いと思い、行くのをやめた。

「爆豪くん手当してた?」
「あぁー…してたんじゃねえか?あいつ器用だしよ」
「確かに爆豪くんて不器用そうに見えて、すごい器用なんだよね」

外見とのギャップが凄いのだ。彼は。

もし見かけた時に爆豪くんが手当してなかったらちゃんと手当しようと思い、救急箱を片付けようと立ち上がると焦凍くんが私の腕を掴んだ。

「どうしたの?」
「あ、いや…それどうすんだ?」

焦凍くんは救急箱を指差して眉間に皺を寄せ少しだけ不満そうな顔で私の顔を見る。

「救急箱?片付けようと思って」
「そうか」

焦凍くんはパッと腕を離し私に背を向けて何処かに歩いて行ってしまった。
本当にどうしたのかと焦凍くんの後ろ姿に首を傾げると切島くんが驚いた顔して意外だなと呟く。

「轟って嫉妬とかすんだな」
「…嫉妬?なんで?」
「佐倉が爆豪の自室に行くんじゃねえかって思ったんだろ」

そこまで言われてやっと嫉妬の理由に気が付いた。ついでに言うと嬉しさで顔が熱くなり、熱を持ってしまったので両手で頬を包むが一向に冷える気配がない。

「あいつも男なんだな」
「…ん」

これ以上切島くんに醜態を晒せないので、逃げるように自室に戻り、勢いよく閉じた扉に背中を預けながらずるずるとしゃがみ込む。恥ずかしいのに嬉しくて仕方ない。私にはなんでもない事でも彼にはそうじゃない。私以上に私の事を心配してくれる。

「今すぐにでも焦凍くんに会いたい」

明日の朝になれば会えるってわかっているのに、この気持ちを抑えられない。でもこの熱を持ったままの顔じゃ会いに行けないから。

私はポケットからiPhoneを取り出し、画面を明るくさせて連絡アプリをタップして焦凍くんの名前を探し出す。それをタップしメッセージを送るとすぐに既読がつき着信画面に変わる。

「もしもし」
“悪かったな”
「嬉しかったって言ったら笑われるかな」
“笑わねえよ”

うん、そうだと思ったよ。貴方はそんなことをしない人だとわかってたよ。
耳元から聞こえる焦凍くんの声に心臓がトクン、トクンと高鳴りそれが心地よく、でも落ち着かなくて胸に手を当てても治まらない。

“寝ねえのか?”
「もう寝るけど、でも焦凍くんの声が聞きたくなって…」

本当は会いたくなったんだけど、それは恥ずかしいから言わないでおく。

優しく語りかけられる言葉につられ、自分から出た言葉もどこか優しげでそれが擽ったかった。

“そうか”
「うん」

これ以上電話を長引かせると寝る時間が短くなってしまうので、名残惜しいが明日に備え電話を切ろうと焦凍くんに話しかける。


「おやすみ。また明日」
“おやすみ”

耳元から離して通話終了の赤い丸をタップして通話を終了させる。余韻を体に残したままベッドに潜り目を瞑る。電話している時耳元で焦凍くんの声が聞こえるからまるで傍にいるみたいに感じた。

彼もそうだったらいいのに。


メッセージで送ったあの言葉を噛みしめ自然と上がる口角をそのまま眠りについた。

“嫉妬、した?”

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