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次の日インターン組と相澤先生は別件でお休みする中、嬉しい客人が会いに来てくれた。懐かしくもあり最近会ったあの人達が私のところに会いに来た。

「久しぶり、ではないよね」
「柚華!!」
「モコナ!」

そう、小狼くんと黒鋼さんとファイさんが次元を世界を超えてこの雄英高校まで飛んできてくれたが、3人と1匹が来た途端警報が鳴り高校全体に警戒態勢を取らせてしまったが私の事情を知っている校長先生が宥めてくれて事なきを得た。

「…来てくれると思ってましたよ」
「流石柚華ちゃん!大当たりぃー」

ファイさんとモコナがへらりと笑いながら拍手をしてくれ、黒鋼さんは面倒臭そうに隠すことも無く溜息を吐いた。

「でも、寮内に着地してくれてよかったです。これで校内だったらもう少し大変だったかもしれないですから」

そう、彼らは寮内の共用スペースに降りてきたのだ。私一人皆と会えた事に喜んでいると小狼くんが申し訳なさそうに頭を下げて私やその場にいるクラスの人達に謝った。

「…小狼くんが謝る事じゃないでしょう?あの小狼くんは貴方じゃないんだから」
「どういう事だ?」
「柚華ちゃん、だってその人柚華を襲った人とそっくりなんだよ?」

狼狽える皆にどう説明しようか考えていると、小狼くんはもう一度私に頭を下げる。

「頭を上げて。彼には彼なりの守りたいものがあったんだから」
「…母さんを守る為にやったとしても許されるものじゃない」
「だとしても貴方がやった事じゃない。小狼くんが謝ると貴方の責任になってしまう。そしてそれは事実に対する嘘をついている事になるんだから」

小狼くんの頭を撫でると彼は顔を上げて恥ずかしそうに笑う。その顔は一緒に旅をしていたあの時の小狼くんの顔と重なり懐かしくなる。

「説明するね」

今、皆の目の前に小狼くんの事、黒鋼さんとファイさんとモコナの事について説明すると、戸惑っていた皆は安心したように息を吐き、それを見た黒鋼さんは急かすように用件はなんだと鋭い目で私を見る。

「この場で話すのは…私の部屋にきますか?」
「柚華部屋見るー!」
「酒あんのか?」
「黒ぷー柚華ちゃんまだ未成年なんだからぁ」

お酒がないと来ないのかなんて呆れながら黒鋼さんを見ていると、黒鋼さんはファイさんとモコナに揶揄されて腹が立って怒鳴っていた。それを小狼くんが宥めるという懐かしい光景に思わず笑みが出る。

「柚華さんあいつらを部屋に連れて行くのか?」
「焦凍くん?そうだよ、聞きたい事もあるし」
「俺もついて行く」

腕を掴まれ振り返ると不満そうに顔を歪める焦凍くんがいて、どうしようか考えているとモコナが、私達に気が付き可愛らしいそのフォルムでぐっと手を前に出し、格好つけた顔をする。

「いいぜ、ついて来いよ」
「…あぁ」

なんでモコナが勝手に決めてんだろうか。そんな口を挟む前にモコナが声高らかに、しゅっぱーつ!と飛び跳ねながらどこかに行こうとしている。それを抱きかかえ部屋に向かうと後ろから残りの4人がぞろぞろとついて来る。



部屋に着くなり黒鋼さんがボソッと狭いと文句を垂れる。それを無視して適当な所に座ってと言うと、モコナが真っ先に私のベットの上に着地してその上で飛び跳ねる。

「モコナあんまり飛び跳ねちゃだめだよ」
「はーい」

私はモコナと同じくベットの上に、焦凍くんはローテーブルの傍にその前に小狼くんが座り勉強机の椅子にファイさんが腰かけ、窓際に黒鋼さんが腰を落ち着かせた。

「聞きたい事があるの…まずはその事から聞きたい」
「何かな柚華ちゃん?」
「私の魔力についてです。私は旅の途中確かにクロウさんから貰ったカードを作り変えました。なのにあのサクラちゃんに杖を渡した時彼女“お父様の気配”がするって言ったんです」
「…それはそのクロウさんが柚華ちゃんがオレに殺されないようにする為だと思うよ」

ファイさんに殺されない為ってどういうことだ?なんで私とクロウさんの事にファイさんが関係するんだろうか。

「どういう意味ですか?」
「えっと、君は…柚華ちゃんの彼氏?」
「はい」

迷うことなく答える焦凍くんに嬉しさと恥ずかしさが入交り、照れてしまうが今はそんな暇はない。私は私の疑問を解消したいのだ。

「オレはね飛王から呪いをかけられていたんだよ。それは自分より強い魔力の持ち主を殺す事」
「だからもし柚華がファイより魔力が強くなると」
「柚華さんが殺される」

だからクロウさんは私を殺さない為に力をセーブさせていたんだ。でも私の魔力は使えば使うだけ私の魔力を強くしていくものだ。それを考えるとあの杖が魔力抑制装置の役割を果たしていたんだ。

「よくわかりました。それともう一つ小狼くん」
「はい」
「飛王は私の命を代償に貴方の自由を対価に侑子さんを蘇らせると言っていたけど、あの時、何を対価に払ったの?」

小狼くんの目を見つめながらそう聞くと、彼は真っ直ぐに私の目を見つめて全てを話してくれた。

「暗闇の中でおれと父さんと君尋が隔離され、そこから出る為に対価を払いました」
「対価は?」
「父さんは消えておれの中に入り、おれは留まらない事を…君尋は留まり続ける事を選びました」

留まり続ける事?
四月一日くんが選んだ対価がどういう意味なのか、彼が今どういう状況なのか分かってしまい悲しさからか虚しさなのか、寂しさから涙が一滴零れる。

四月一日くんは自ら留まる事を選んだって事はそういう事なのだろう。

四月一日くんにとって侑子さんはそれだけ大切な人だったのだ。

「……そうですか」
「柚華さん大丈夫か?」
「焦凍くん、私帰るね。オールマイト先生を呼んでもらってもいいかな」
「…わかった」

焦凍くんは少しの間私の顔を見つめ、目尻に残った涙を指でそれを拭い部屋を後にしてくれた。

「ファイさん…私に力を貸してください」
「次元の魔女がいた所に帰るんだね」
「はい」

私は四月一日くんに会わないといけない。
知っている人が次々に亡くなっても自分はまだ死ねない。そんな気が遠くなるような長い、果てしなく先が見えない時間に彼は自ら選んだのだ。そんな彼に私は何が言えるんだろうか。

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