91




朝、皆に迎え入れられながらも緑谷くん達の話を聞いてインターンがニュースで取り上げられるほどの事件に関わっていたと知り、緑谷くん達に何か出来る事はないかと制服に袖を通しながら考えるがこれと言っていいものが思いつくわけでもなく、何かのタイミングで閃くだろうと相澤先生の所に行こうと玄関を出ると焦凍くんと爆豪くんが立っていた。

「2人とも何処かに行くの?」
「あぁ?!何処でもいいだろうが!!文句あんのか?あ?」
「やめろ爆豪」
「あぁ、仮免ね」

2人が手に持っているヒーロースーツケースが目に入り仮免の補習かと納得すると爆豪くんは隠すことのない舌打ちをして私から顔を逸らす。

「柚華さんは何でここに?」
「私は相澤先生に用があって…」
「それなら俺達も会うから一緒に行くか?」
「そうしようかな」

3人横並びで歩き出したと思いきや、爆豪くんは足並みを揃えたくなかったのかワンテンポずらして歩き出した。
普段私と焦凍くんは歩く時自然と焦凍くんの斜め後ろを歩くのだが、そうなると爆豪くんと私が横並びで歩くことになる。

「テメェら後ろ歩けや」
「相澤先生…昨日の今日で申し訳ねぇな…」
「相澤先生大変だね…」
「テメェらと世間話する気はねぇ!」
「おま……」

2人の様子を苦笑いしながら見ていると、2人は何かに気がついたらしく前を向いた。それにつられるように前を向くとマイク先生とオールマイト先生がマイクロバスの前に立っていた。

「遅ーーよ!バッボーーイ!!」
「プレゼント・マイクと…オールマイト」
「引率って相澤先生じゃないんですか?」

さっき焦凍くんは相澤先生が引率してくれるようなことを言っていたから、てっきり相澤先生なんだと思ったがどうやらそうではないようだ。

「今日の引率は私たちが行くよ」
「イレイザーは昨日の事件絡みで学校をあける事が多くなりそうなんだと」

マイク先生が爆豪くんの顔面を指で何度もつつくが、そんな爆豪くんを放っておいて焦凍くんが詳しい説明を求めた。

「救出した子の個性に関して彼の力が要るそうだ。んで!!代理がオールマイト!!俺はイレイザーに警護を頼まれてやったってわけ!」
「連合の動きを鑑みての措置だ」

成程。と納得するもどうしようか、と考えているとオールマイト先生がバスに乗ることを促した。

「オールマイト先生」
「…佐倉少女、この後時間あるかい?」
「え、まぁ。でも私相澤先生に帰寮の報告をしたくて」
「それは私が引き受けるよ」

オールマイト先生は私に触れないよう腰に手を回してバスに乗ることを促し、私はそのままバスに乗り込んだ。先に乗り込んだ焦凍くんと爆豪くんは別々の所に座っていて、焦凍くんの隣に座ろうと中に足を踏み入れるが、オールマイト先生が私を呼び止めて近場の座席に座らせ、その隣に彼が座った。

「そりゃないぜオールマイトー」
「え?何がだい?」
「いえ、お2人とも気にしないでください」

マイク先生の信じられないものを見た。みたいな声にオールマイト先生は首を傾げた。
きっと先生は私と何か話したいことがあるから隣に座らせたんだろう。
そう思いオールマイト先生の横顔を見つめるとオールマイト先生は頬を赤らめて照れてように首に手を回して顔を逸らした。

「先生?」
「いや、そんなに見つめられると話しづらいと言うかなんと言うか…」

オールマイト先生は1つ咳払いをして私の方に顔を向けた。そして真っ直ぐ蒼色の瞳で私を見つめる。

なんだろう?

「先程の相澤くんの話だが、君の力を借りる日が来るかもしれないんだ」
「救出した子の個性に関連する事ですか?」
「あぁ。その子の個性で無個性になってしまった生徒がいる。その子を治す可能性に君の能力が浮上したんだ」

個性は齢4歳頃に発現し、死ぬまで個性が自然と消えることはない。そう聞いたからその生徒は外的要因で個性を失ったという事だろう。そしてその要因は救出した子にある。

「その救出した子の個性というのは…」
「詳しくは分からないけど巻き戻す個性というのは聞いたよ」

恐らく時間を巻き戻す個性なんだろう。
でも発動条件も分からなければ効果がいつ切れるのかも分からない。今の所効果切れは期待できそうにない。

“消(イレイズ)”で消せるかどうかっていう問題だよね。

過去に起きた現象とかは消せない…けど、新しくなったこの杖なら出来るかもしれない。

深く考え込む私にオールマイト先生が慌てたように声をかける。

「あまり深く考えなくてもいいんだ!ただ、その話が出ているから君もその気持ちだけでいてくれって話で、我々も最初から君をアテにしてるつもりはないよ」
「あ、はい」

でもそんな事を言われて気負わない人がいるだろうか。少なくとも私は気にするし何かあったら力になりたい、と思うタイプだ。何かあればすぐにでも動けるように心構えをしておこうと流れゆく窓の外の景色を見ているとスカートの中に入れていたiPhoneが振動し何かの着信を知らせる。オールマイト先生もマイク先生と通路を挟んで話しており、見ても問題ないだろうと思いiPhoneを取り出し画面を明るくさせると焦凍くんから連絡アプリで短いメッセージが入っていた。

“なんかあったのか?”

心配してくれているのだとすぐにわかるメッセージに自然と口元が緩まり胸の奥が温かくなる。

“大丈夫だよ。ありがとう”
“何かあったらすぐに言ってくれ”
“うん”

メッセージを送った傍から既読がついて返事が送られてくる。同じバスの中にいるのに声を出してやり取りをしているわけじゃない。他の人に聞かれても大丈夫な会話しかしてないのに2人しか知らないこの会話がまるで秘め事のようで胸の奥を甘く痺れさせる。

日に日に焦凍くんの事が好きになっていく。

にやける口元を必死に抑えていると会場着いたようで、バスが止まりマイク先生を筆頭にオールマイト先生が座席を離れたので私も続けてバスを降りた。

会場に入ると焦凍くんと爆豪くんは着替える為に更衣室に。先生方はこのまま観客席に行くようで観客席に行く階段に目を向けると炎司さんが炎を纏わせながら腕を組みこちらを見下ろしていた。

「あ、」
「どうかしたのかい?」

階段から目を逸らしてオールマイト先生達の方を見るとマイク先生がケッパレよー!と声援を送っていて、焦凍くん達は既に背中を向けていた。

- 92 -
(Top)