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「焦凍の引率ご苦労」
「エンデヴァー!」
「丁度いい…貴様とは…腰を据えて話したいと思っていた」

炎司さんの纏う空気が鋭くて鳥肌が立つ。オールマイト先生も何も言わずに炎司さんを見ていて、空気が重たいものになっている。そんな空気に耐えられなかったマイク先生がコーヒーを買ってくるぜ!と自販機の方に行き、私も逃れるようと足を1歩後退させるも炎司さんが私の動きを視線で制した。

あ、これは逃げられない。

簡単に逃げたマイク先生を巻き添いにしようと声をもらす。

「マイク先生が戻って来るのを待ちませんか?」

私たちはマイク先生が戻ってくるのを待ち、当の先生は私たちが1歩も動いていない事にショックを隠しきれてはいなかった。

「前の方でいいっスかね?見やすいし!」
「なるべく目立たない席にしよう。皆の邪魔になる…」

オールマイト先生が皆のことを考えて気を使わせないように目立たない席に行こうとするが、そんなことは関係ないとばかりに炎司さんが焦凍くんの名前を大声で叫ぶ。

「焦凍オオオオオ!!!お前はこんなところで躓くような人間じゃない!格の違いを見せつけるのだァァ!!」

隣で叫ぶ炎司さんの声があまりにも大音量で吃驚する。それは私だけではなくオールマイト先生やマイク先生も驚いた顔をして、マイク先生に至っては小声で親バカなの?って私に確認したくらいだった。

「焦凍くんへの愛情は押し潰れちゃいそうな位に」

可哀想なほどに重たい愛が少し前の彼を作り上げたのだろう。

講習を受ける生徒がエンデヴァーが来たことに動揺し、オールマイトを見つけて嬉しそうに手を振る。

憧れのヒーローがいるという事で興奮が冷めやらず公安委員会の目良さんが静かにするようにと注意をする。それでも何処か浮き足立っていて皆がちらちらとオールマイトの方に視線を寄せる。

「目立っちゃいましたね」
「ははは…そうだね」

オールマイト先生とマイク先生に挟まれる形で席につき、小声でオールマイト先生に話しかけると先生は苦笑いしながら生徒達を見ていた。

しかし、そんな空気もギャングオルカが現れた事により一瞬で消し去り、炎司さんの時のようにビリッと肌が痛む鋭いものを放ってる。

「今日も懲りずに揃ったか。あの温い試験にすら振い落された落伍者共め」

実感としては割とキツイものがあったけど、ギャングオルカさんから見たら温いものだったのだろうか。

「これまでの講習で分かったことがある。貴様らがヒーローどころか底生生物以下!!ダボハゼの糞だとな!!!」
「サー!イエッサー!!」

ある種の恐怖を感じる講習にあの時仮免合格出来て良かったと心の底から思う。

「特に貴様だ!ヒーローになる気はあるのか?!」
「まずは糞じゃァねぇんだよ」
「指導ー!!」

爆豪くんを投げ飛ばしたギャングオルカさんは焦凍くんに目を向ける。

「どうしたら糞が人様を救えるか!?」
「…肥料とか間接的に…」
「指導ー!!」

天然発言をした焦凍くんもギャングオルカさんに投げ飛ばされ次に夜嵐くんに目を向ける。

「戦闘力、機動力だけで人は人を称えるのか!?」
「サー!イエッ」
「指導ー!」

夜嵐くんももれなく指導され、座り込んでいる3人に向かってギャングオルカさんは言葉を重ねる。

「貴様ら3名が十分な戦闘力を持っていることはわかった、だがそれだけだ。要救助者への不敬な振舞い、周囲の状況を無視しての意地の張り合いなどの愚行…!今日は貴様らに特別な試練を与える!貴様らに欠けているモノ。それ即ち“心”!!差し伸べた手を誰もが掴んでくれるだろうか?!否!!時に牙を剥かれようとも命そこに在る限り救わねばならぬ!!救う救われるその神髄に在るは心の合致通わせ合い!!さァ超克せよ!!死闘を経て彼らと心を通わせてみせよ!!それが貴様らへの試練だ!!」

3人がギャングオルカさんの言葉で戦闘態勢に入る中、ケミィと名乗った彼女は少し納得がいかない顔でギャングオルカさんを見ている。そんな中4人の前にある扉が開いて沢山の子供たちが飛び出してきた。

「ひーろー!!」
「ナマー!ナマヒーロー!」
「わあああ!!」

皆がそれぞれ思い思いの場所に向かって飛び出していき、この子たちの先生であろう女性教師が困ったように声を生徒にかけるが誰一人として聞いてはいない。その光景に気合十分だった3人が固まってしまっている。

「もおおおお!ちゃんと言う事聞きなさいってば!!!」

なんと言うか、ここまで先生の言う事を聞かない生徒も珍しいと言う印象があるが、この世界の小学生はこんなものなのだろうか。それにしても自由奔放な気がしなくもない。

「市立間瀬垣小学校の皆さんだ。責任持って児童をお預かりします」
「よろしくお願いします」

先生はギャングオルカさんに何度も頭を下げている中、爆豪くんが怒鳴るような声で死闘は!!と叫ぶと、爆豪くんの爆弾型の籠手に興味津々だった男の子が恐怖で泣きだし、爆豪くんを囲っていた男子生徒が拳を作って殴りだし、もう1人の生徒が泣かされたと声を上げる。

「みんなァタクトくんが泣かされた!!」
「うっ、うっ、すみませんでした…」

何故か怖がって泣いただけのタクトくんが謝りだし、爆豪くんを殴っている生徒が、泣かしてんじゃねーバクダン!!と声を上げると爆豪くんが、泣いてんじゃねーー!!と声を荒げる。

それじゃダメでしょ。と声を出したいが私は今講習に参加していない身だから爆豪くんに言葉をかけるわけにもいかないし、普通に考えて気が付いて欲しい。

その様子を見ていた壁に背を預けて立っていたそこそこ育ちの良さげな男子児童が爆豪くんに話しかけた。

「いるんですよねぇ。そうやって頭ごなしに怒鳴っていれば思い通りになると思っている大人…ま、響きませんよね」
「何だこいつ!!!」

男子児童は軽く握り拳を作り心臓に自身の親指を当てて、当然だ。と言うような顔で爆豪くんを諭す。

性格的個性が強い子だなぁ。なんて他人事で上から様子を見ていると横に座っているマイク先生が肘で私の腕を突き注意を向けさせる。マイク先生はとある方向に指差していてその指を辿ると焦凍くんが3、4人の男子児童に絡まれていた。

「君の彼氏大丈夫なの?」
「彼氏って…子供の相手とかってした事ないと思いますよ」

子供たちは焦凍くんの腰にぶら下がっている物に興味があるみたいで、焦凍くんが丁寧に、救護が間に合わない時の応急処置道具だ。と説明したが話の途中でつまんね。と切り捨てられていた。終いには児童に襲われていてこの講習が果たして終わるんだろうかという疑問まで生まれてしまう。

だい、じょうぶ…なのかなぁ?


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