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講習を受けている皆も気になるが、私はもう1つ気になる事がある。
それはマイク先生とは反対隣りに座っているオールマイト先生と1つ空席を開けて座っている炎司さんの事だ。
2人ともほぼ無言を貫いている。それが重たくて些か辛い。
この2人が話をするところなんて想像があまりつかないが。

焦凍くん、爆豪くん、ケミィさん、夜嵐くんの4人以外は座学で講習を行うらしくギャングオルカさんが連れて行き爆豪くんは、保育士になれってか!!と半ばやけくそになりながら叫んでいる。

前途多難。そんな言葉が今の彼らには似合うのだろう。
子供たち相手にどうしたらいいのかわからない。そんな思考が手に取るようにわかる。

子供たちと遊ぶ、と云うよりは子供たちに遊ばれている。傍から見るとそんな光景が眼下に広がっている。私達は何もすることがないのでその様子をただ上から見る。そんな状況に限界を迎えたマイク先生が立ち上がって叫ぶ。

「MC魂が!!限界を迎えた!!BGMに実況!!それら無き催しに宿るソウルはない!」
「あってもなくても正直そんな…」
「あってもなくてもってのはあった方が良いって事なんだぜマイティーボーイ!!」
「あ、ちょっと…」

マイク先生はそう言うやいなや駆け出していき、公安の方々の席に置かれているマイクを取っていつもの調子で語り出した。

「さァバイブスアゲてけレットーセー!!!始まったぜ卵とジャリのバトルがよォ!!」

目良さんのマイクを奪ったマイク先生は台本もないまま焦凍くん達の様子をわかり易く実況してく。なんと言う鮮やかさだ。と感心しているとマイクを片手に持ったマイク先生が不意に私の方を見て手招きをする。その合図を見てオールマイト先生と炎司さんを見ると首を縦に振って頷いたのでマイク先生の所まで行くと先生は目良さんの隣に座ってマイクを口元にセットしていた。

「返せー!!!ガキのオモチャじゃねぇんだよ!!」
「転がらねー!思い通りに転がらねー!!」

爆豪くんが端に置いておいた籠手を子供たちに取られサッカーのように足で蹴って遊び始めてしまった。それを見た爆豪くんが怒鳴るが聞く耳持たずで楽しそうに籠手を蹴ったり脇に抱えて走り出したりしている。それを見ながらマイク先生の隣にあったパイプイスに腰を掛けた。

「つーか、心を掌握って課題がユルフワで何をどうしたらオケオケか不明ー」

ケミィさんの言葉に確かにと頷いてしまう。
そんな彼女はポニーテールの女の子に近づくが警戒した猫のように威嚇してケミィさん近づかせようとしない。

「さァチームダボハゼどうしたらいいかわからないった面持ちだ!!」
「それ、悪口じゃ…」
「良いんですけど一応講習なんで程々に」
「オケオケ!!」

目良さんの注意も軽く受け流してマイク先生は目良さんとマイク先生の間に座っている間瀬垣小学校のあの子たちの担任をしている女の人に訪ねた。担任の先生は目から涙を零しながらあの子たちの現状を教えてくれた。

「小学校低学年は人格形成の於いて大切な時期です…。個性の違いが大きく影響する為カウンセリングを行い健やかな精神を育めるようサポートするのですが…カウンセリングも万能ではありません。このクラスの子達は私達に心を閉ざしてしまいました。私の責任である事は承知しています…!ですが…!夢に向かって励んでいらっしゃる皆さまと触れ合うことでまっすぐな気持ちを思い出させてあげれれば…」

その言葉を聞いた焦凍くんは何かを納得したような表情で担任の先生を見る。

「ーーー…野暮なことは言いっこなしだな。人が困っている」
「つまり皆と仲良くなればいいんスね!!よーし!!」

子供たちをなんとかしようとする焦凍くんと夜嵐くんを尻目に爆豪くんが唸るような低い声をだす。

「子守なんぞとっとと終わらせて向こうの講習に参加だ」
「ああっと早速野暮だ爆豪!!雄英の火薬庫はどういうアプローチに出る?!」

流石爆豪くんブレない。

「先公が先導者としての役割を果たせずナメられた結果ガキが主導権持っちまってんだよ。なんとなく、いつの間にか。はこうはならねぇ。クラスの空気を形成しているボスが必ずいる。そいつを見つけ出す。そしてバキバキにへし折り見せしめに吊るして全員に石を投げさせる。自分がいかに矮小な存在かを擦り込むのが一番効くのさ」

途中までの見解は成程と納得したのに後半の意見には意義を唱えたくなる。
今はアドバイスも何も出来ないので声には出せないが、講習じゃなかったらきっと声を出していただろう。…いや、講習を開かないとこんな機会はないか。

「さァ、独自の見解を述べた爆豪だが…!」
「1番強ェ奴出てこいや。俺と戦え」
「駄目そうだ!!」
「どうしてそうなったの…?」

思わず声に出てしまった。体制を低くして子供たちに向かって戦闘態勢を取っている爆豪くんを見て、壁に背中を預けて立っている育ちの育ちの良さそうな男の子が片手をジャケットに突っ込み、もう片方の手で自分の頭を指差し鼻で笑いながら爆豪くんに話かけた。

「そういう前時代的暴力的発想…お里が知れますよね」
「お里を知られたァ!!」

爆豪くんの様子を見ていた担任の先生が、大丈夫なんですか?と申し訳なさそうに話しかけると、マイク先生は余興です。と即答した。多分、というか絶対に余興ではないしなんだったらあれが爆豪くんのやり方なのだろう。
なんてことは声に出して言ってはいけない事くらいわかっているので何も聞かなかった事にして、焦凍くん達の様子を見ていると、夜嵐くんが大きく手をあげて子供たちに元気よく叫んだ。

「ヒーローになりたい子ーーーーー!!!?」
「次鋒は士傑の子ー!!」

夜嵐くんの言葉に子供たちが、ヒーローになるー!と元気よく手をあげながら近づく。夜嵐くんは集まって来た子供を両手に抱えて持ち上げてよくわかんない言葉を発しながらも子供たちを手なずけていく。

「そうかー!!俺もなりたいっス!!熱さと情熱こそ滾る血潮っスよね!!」

ヒーローとは…?と問いたくなるよな台詞に首を傾げながらも、元の人柄の良さが滲み出ているのか子供たちが興味深そうに夜嵐くんを見つめている。これはいけるかもしれない、なんて思っていたらそんな簡単にいくはずがなかった。

「みんなの笑顔を守るのがヒーローっスよね?!先生を困らせる子は立派なヒーローになれるかな?!」
「………なれない…?」
「うん!!それなら」
「でも…!じゃあさ!講習開いてもらって先生や公安の人たちのお仕事増やしているお兄ちゃんたちもなれない…?」

子供の言葉に納得した夜嵐くんが、たしかに!!!と叫び風の個性を使い回転しながら真上に飛んでいく。その様子を見て抱えても貰っていた子供たちがお腹を抱えてケタケタと笑っている。そして最後には子供たちに向かって勢いよく頭を下げる。

「偉そうに語っていい立場じゃなかったっス!すいませんでしたァ!!」
「豪快に繊細だな」

地面に頭を打ちつけながら謝る夜嵐くんの様子を見ていたケミィさんがこの場に誰もが思っている言葉を言ってしまった。

「この子ら思ったよりヒン曲がってないー?」
「だから言っただろ時に暴力も必要なんだよ」
「爆豪。それは違う」

爆豪くんの言葉を真っ向から否定した焦凍くんは、もっとやりようはあるはずだ。と言葉を重ねた。
焦凍くんの境遇を考えると思う所がある。体育祭の時に焦凍くんの生い立ちを聞いてしまった爆豪くんもそう思ったのか顎をクイクイと動かし挑発する。

「じゃァ見せてくれよてめーのやり方をよォ」
「あぁ」
「さーて次はおまえか!!!冷静と情熱の間轟焦凍ォ!!」
「…頑張れ!」

焦凍くんは子供の扱いが上手なイメージ全くないけど、もしかしたらがあるかもしれない。
そんな一心で私は両手を胸の上に持っていきギュッと目を閉じた。

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