94




「焦凍ォ!!」

炎司さんの応援なのかなんなのかよくわからない叫び声が響く。
その相変わらずな炎司さんに苦笑いしつつ焦凍くんのやり方に目を向けると、2人の女の子が焦凍くんを見て頬を赤らめていた。小さくともちゃんと女の子なんだと笑みが零れる。

「イケメンのイクメン見れるとか眼福ーー」
「イケナイ、同じレベルになるわ。ムシよムシよ」

ケミィさんの言葉に、正気に戻ったポニーテールの女の子が無視しようと顔を背ける。

「さァどうやって距離を縮めるのかこいつァ見物だぜ!佐倉はどう見るんだ?!」
「私ですか?!そう、ですね…焦凍くん真面目だから、その…チャンスはあるかな、と…」
「わかった。皆まで言うな」

マイク先生に聞かれたがどう答えていいのかが分からない。きっとあの場にいる中で1,2を争う位子供にご縁がないと思う。そんな彼が今すぐ子供を手なずけられるとは思わないけど期待は捨てたくない。

「ゴチンコはつまんねーからいいよ」
「でかいゴリラをからかおーぜ」

でかいゴリラって夜嵐くんの事かな?って言うかこの子達本当にすごいな。遠慮なんて言葉を知らないようだ。なんて思っていたら焦凍くんが一瞬炎司さんを一瞥した。彼がその時に何を思ったのかはわからない。私にはそれを知る術がなかった。

「俺はゴチンコじゃねぇ。ヒーロー志望の雄英生徒ショートだ。現1ヒーローのエンデヴァーを父に持つが俺はずっと奴を憎み見返す為にヒーローを志してきた同級生との交流を」
「人物紹介ページみたいな語りから入ったァ!!」
「焦凍くんは真面目だから」

自己紹介を聞いた子供たちはあまりのつまらなさに生唾を飲んでいる。そして、つまんね。と一刀両断した。
まぁそんなこと言われてもつまらないよね。と共感する事しかできない。

ケミィさんが何かを提案したらしく4人は何かを話合いし始め、それをみた子供たちが焦凍くん達を睨みだしてそれぞれの個性を発動させた。それを見た担任の先生が、危ない!!と注意するが子供たちはき聞く耳を持たずで、それをみた焦凍くん達も応戦しようと個性を発動させる。
…なんでこうなった。そう問いたくなる瞬間。マイク先生と私の心は1つだろう。小学生相手になんでこんなに手間取っているんだろう。

「見せてやるぜ!!俺たちの方が上だってよ!!」
「来いやガキ共相手してやるぜ」
「フン…結局そうやって上から押さえつける事しかできない。当然、響きません」

今にも子供たちと戦闘を起こしそうな雰囲気に首を傾げざるを得ない。士傑高校の2人の事はよく知らないが、焦凍くんと爆豪くんは簡単に個性を使って子供たちに手を上げるような人じゃない。
4人が何か話し合っている時何を言っていたのかは聞き取れなかったが、少なくとも痛めつけようとかって話はしていない。彼らは何を目的にしているのだろうか?

「力に力で対応するのは迂愚の極み!!」
「?!」
「誰だてめー!!」
「先程から士傑高校の子細を把握しておらぬ様子。実況を衡平に行えるように助力したく参じた次第」
「何て?」

えっと、私この男の人知らない。けど士傑高校の生徒なのだからこの人はきっと仮免試験を突破した人なんだろう。とても遠まわしで難しい話の仕方をする人だけど、行っている事は簡単だ。士傑高校の生徒の事は任せて。って事だろう。
士傑高校の男子生徒が背筋をピンと伸ばし両手を後ろで組み話し出す。

「プレゼント・マイクの仰せの通り本気で衝突すれば児童に残るのは忸怩たる思いのみ。逆に手心を加え児童に華を持たせれば更なる増長を招く…対話を擲った時点で彼奴等は袋小路に入り込んでしまった」

士傑高校の彼が言うように、果たして本当に袋小路に入り込んでしまったのだろうか。突破口を見つけたのではないのだろうか?

そんな事を思っていると、マイク先生の隣に座っていた担任の先生が焦ったよう子供たちを止めようと立ち上がる。

「すみません!!悠長に話している場合じゃないですよ!!あの子たち…自分の個性がヒーローより優れていると…本気で皆さんを負かす気でいます!!」

そんな事を言っている隙に鋭い牙を持った黒いボールを纏った男の子が爆豪くんに向かって、黒いボールの個性を放つ。爆豪くんはそのボールを僅かに顔を傾けて躱すが戦闘服の一部である目元を覆っている黒いマスクが喰いちぎられ、マスクを食べたであろう黒いボールは粉になって消えた。

「どうだァ俺の暴食魂(ビンジンボール)!!避けられなかったろ、速くて強くて見えなかっただろォ!!?」

その男の子の攻撃を先頭に次々に他の生徒たちが焦凍くん達に向かって個性を放つ。

「襲う塵芥(アサルトダスト)」
「あいつらナススベないぜェ!おらおらやっちゃえー!!」
「舌戦車(タンダンク)」
「バイラスコスモス!」
「電磁弾!!」
「王の破城槌(キングスラム)!!」
「飛輪(フラフープ)!!」

様々な個性の攻撃が4人を襲う。沢山の個性の所為で爆発が起こり破片が私達が座っている処まで飛んでくる。

「最近の子ヤベェエエエ!!オイオイ…どうなってんの。俺がこんくらいの頃はこんな威力だせやしなかったぜ。身体的にも法的にも心理的にもよ」

主観的にも客観的にも強い個性を持っていたとしたら普通は見せびらかしはするかもしれないが、人に向かって使用することはまずないだろう。だってそんな機会がない筈だ。でもこの子たちは躊躇なく人に向かって個性を使っている。それはつまり学校でも個性を使っているって事だ。それはかなり大問題なんじゃないかな?

「……こんな話があります。世代を経るにつれて個性は混ざり深化していく。より強力より複雑化した個性はやがて誰にもコントロールできなくなってしまうのではないか。“個性特異点”と言われる終末論の1つです。この子らを見ていると…少しゾッとしますね」
「この世の終わり、か…」

確かにそんな未来も遠くない。そんな事を思ってしまう。だって焦凍くんは炎司さんが強い個性の子供が出来るようにと言って結婚相手も選びできた子だ。言い方は悪いがそういう目的で作られた子供で事実個性は炎と氷の強力な個性だ。他の生徒は1つだけなのに対して焦凍くんはある意味複数の個性を持っている。

「すみませんすみません、全て私が…!」
「おっと先生!まァ!今はあいつらのターンもうちょい見ましょ」

煙が散り4人は傷1つついてないまま姿を現した。

- 95 -
(Top)