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「すみません。変な所を見せましたね」
「気にする所ではないだろう」

爆豪くんが滑り台を爆破で壊す音をBGMに糸目の士傑高校の男子生徒にお辞儀をして、オールマイト先生たちの所に戻る為歩き出す。途中お手洗いに寄って目の充血具合を確認したが大したものでもなくカードを使わなくても大丈夫そうでホッと息を吐いた。
観客席に行くにはロビーを通らないといけないのだが、そのロビーには既にオールマイト先生と炎司さんの姿があり、私の後ろにはマイク先生もいた。

「さァ先に外に出て待っていよう」
「はい」

先生方に囲まれながら外に出ると、先程の士傑高校の制服を着た糸目の男子生徒がいた。傍には先生と思われる男性が立っており、こちらに気が付いた士傑高校の先生が頭を下げる。オールマイト先生も頭を下げると向こうの先生がこちらに向かって歩いてきて、丁寧な挨拶の言葉を述べた。
そして話題は敵連合の話になり、これからは密に連絡を取り合い情報を共有していこうとい事になった。正直この話は私が聞いていい話じゃないような気もする。仮免の時のケミィさんは本当は偽物だったとかも今日知ったのだし。

「えー何肉倉オールマイトとダベるとかマジ象徴ー!ヤバイ何の話?人生系?」

そんな中今話題に上がっていたケミィさんが特徴的な話し方で混ざって来て、糸目の男子生徒がケミィさんに詰め寄った。

「貴様の話だ痴れ者が!!!」
「マジ?ヤバ」

そうか、糸目の彼は肉倉と言うのか。肉倉さん、肉倉さん。うん、覚えた。
頭の中で音を何度もリプレイして彼の名前を覚えながら頷いていると、焦凍くんと目が合った。不思議そうに私の顔を見る焦凍くんを見るとさっきの笑顔を思い出してしまい、頬に熱が集まるのが分かり、見られたくなくて顔を逸らす。

「連合が今回雄英以外の学校に手をかけたという事実。これまで士傑と雄英は特段深い交流はありませんでしたが、情報共有を含め今後は連携していこう、という話です。現見くんが襲われた動機も不明のままです。協力することで奴らをより可視化できないかと」

肉倉さんの後ろから顔を出した士傑の先生がケミィさんにわかりやすく説明している間、肉倉さんはずっとケミィさんを恨めしそうに睨みつけていた。その事にケミィさんが気にしている様子が全くないので普段からこんな感じの人なのだろう。

「今後、合同での実習も検討して下さるとの事だ!」
「次ァサシでぶちのめす」
「貴様はまだそう粗暴な言動を!!立場をわきまえろ!」
「あんたに言われたかァねェんだよ」

売り言葉に買い言葉。根本的に性格が合わないんだろうなぁなんて2人の様子を見ていると、炎司さんの焦凍くんを呼ぶ声が聞こえた。

「久し振りだな焦凍。ずいぶん変わった」
「うるせェよ」

血の繋がった親子なのはわかっているが今までの事があり、不安になって横目で焦凍くんたちの様子を見る事にした。焦凍くんの頭を撫でようとしたのか炎司さんが手を伸ばすが、焦凍くんがそれを腕を振って掃う。

「焦凍。おまえは自慢の息子だ」

その言葉を聞いた焦凍くんが若干殺気立ったように顔を険しくさせて、炎司さんを睨む。

「ならば俺もお前が胸を張れるようなヒーローになろう。父は1ヒーロー…最も偉大な男であると」
「勝手にしろよ…」

それは紛れもなく炎司さんが焦凍くんに歩み寄った瞬間であった。やっと炎司さんが焦凍くんを見てくれた瞬間のようにも感じる。自分の上位互換の代替え品から1人の息子の父親に、息子が背中を追いかけられるようなヒーローになると言う宣言に自然と口元が緩む。

「気持ちワリィ」
「ふふ、ごめん」

爆豪くんに気持ち悪いと言われても、嬉しさで口元が緩んだまま引き締まってくれない。私がこんなに喜んでも仕方ないのはわかっているんだけど止まらない。

「じゃあ、行こうか」

オールマイト先生の言葉にそれぞれがそれぞれの帰路につくことになり、夜嵐くんが大きく腕を振って私達を見送ってくれ、焦凍くんは炎司さんの後ろ姿を一瞥して擽ったそうに笑って顔を伏せた。
今は声をかけずにそっとしておこうと距離を取って歩いていると、腕を振って見送ってくれていた夜嵐くんが私に向かって走って来て、豪快に頭を下げた。

「すみませんっス!!!」
「はい?」
「あんたが貸してくれたハンカチ今日もってきてないんス!!」
「へ?!…はぁ…あぁ仮免の時のだよね!気にしなくていいでよ」

そういうと夜嵐くんは申し訳なさそうな顔をしてもう一度私に頭を下げた。
その姿勢が可哀想でどうしようかと考えていると、先にバスに向かっていた焦凍くんが戻って来てくれて私の隣に立つ。私達の様子に首を傾げる。

「どうしたんだ?」
「夜嵐くんに貸したハンカチをいつ返すかって話なんだけど、中々会う事ってないじゃない」
「…俺に渡せばいいじゃねぇか」

その手があった。なんで今まで気が付かなかったんだろうって思う程の解決策に申し訳なさと感謝の気持ちが同時に込み上がってくる。夜嵐くんも顔をあげて焦凍くんを見ており、その表情は盲点だった言っている。

「それじゃ、次の講習の時に焦凍くんに渡してもらってもいいかな?」
「わかったっス!!それじゃ!!」

夜嵐くんは大きく頷いて、腕を大きく振って私達に背を向けて走って行き、それを見送った私達も皆が待っているバス乗り場まで足を進めた。

「遅っせェんだよ!!」
「ワリィ」
「ごめんね」
「全員揃ったね。帰ろうか」

エンジンのかかる音がして車体が僅かに揺れ出す。ゆっくりとバスが前に進み始めて雄英高校を目指して走り出す。窓側に座り流れる景色を眺めていると不意に右肩に何かがのっかかり、出来る限りで首を動かし横目で見ると、隣に座っていた焦凍くんが腕を組んで両目を瞑って頭を私の肩に預けて静かに肩を揺らしていた。

「お疲れ様」

紅白に分かれた頭に手を置いて起きないようにそっと撫でる。
焦凍くんはただただ深い眠りについていた。

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