「そう言えば名前は場慣れしていないと言ってましたが、戦闘経験がないわけではないのでしょう?」
「えぇ。ですが弓での戦闘経験は自慢できる程はないんですよ。外さないので足は引っ張らないけれど、立ち回り等は今も勉強中ですね」
「へぇー。でも名前は戦闘慣れしているよね」
まぁ、私としてはクラスアーチャーで現界したのかがわからないくらいだ。元々槍術を得意としていたのだから、クラスで言えばランサーの方が適性がある筈なのに。
「名前は何で弓を使っているの?」
「弓では、と言ったくらいなので、他の武器を使っていたのでしょうけど、どうして極めた武器を捨てたのです?」
「話せば長くなりますが……」
私は元々大商人である家に生まれ、何の苦労もなく、というと語弊はあるが他の家よりも裕福に暮らしていた分、衣食住に困るような生活をしていなかった。その代わり、いつどこで襲われるかわからない生活をしていた為に、父の勧めで槍を握るようになった。
あぁ、そうですね。今でいう所の中学生辺りででしょうか。
自分の身くらいは。と習ったそれは思いのほか私にはあっていたようで、気が付けば戦場に出るようになっていました。勿論アサシンと出会う前の出来事ですよ。
幾度も死を覚悟した瞬間があったが並外れて強かった所為か、気が付けば指揮を任されるまでになり。女だからと馬鹿にしてくる大男連中を槍1本で黙らせる事にも慣れ、誰も文句を言うような人間がいなくなり、連戦連勝を重ねて来た頃。父が病に罹り床に臥せた。
知らせを受けた私は、急いで地元に向かい、早急に実家の商いをどうするかを話し合った。私が戦場に出ている事を知らない父は、女の私は弱く店を任せるわけにはいかない。との一点張りで……。
もしかしたら、父は私には女らしくか弱い存在でいて欲しかったのかもしれませんが。
そうこうしているうちにも他国からの軍勢は国境まで迫っていて、私は後ろ髪惹かれる思いで実家を離れ国の為に多くの血を流した。何人もの命をこの手で屠り、死体の山を積み上げて来た。そんな帰りに出会ったのがアサシン……燕青。道端に落ちていた男を拾い、勝負を仕掛けたら存外強く、これに守ってもらうから家を継がせろ。と父に直談判し、父が臨終した暁には店を譲ってもらう事になった。
その頃にはこの国の在り方に疑問を持っていましたから、なおの事店を譲って欲しかったのです。
床に臥せっていた父の体調は回復したと同時に、私は燕青を連れて色んな戦場を駆け巡った。背中を任せられるのは燕青だけで、燕青も私に背中を預けてもらう事を誇りに思っていたようで。この情報は部隊の人間から聞いたので、彼は私がその事を知っている事を知りませんのでご注意を。
……全戦全勝を収めていた私が率いる部隊は国に捨てられ、敵軍の中孤立してしまい、今度こそ死を覚悟したその日、敵に刺された私は燕青と部下たちの活躍で敵軍から逃れる事が出来た。
アルトリア、怒ってくれるのは嬉しいのですが、過ぎた人間を脅威とみなす人間が中にいただけの事です。貴方が治めた国はさぞ良い国だったのでしょうね。
そんな事があってから燕青の過保護に拍車がかかり、遂には武器を取り上げられ、代わりにと与えられたのが弓矢だった。遠距離射撃であれば敵と間近で戦う事もない。私に近づく出来は自分が全て殺す。そう言って彼は自分の武術に磨きをかけていった。魔力があったわけじゃないあの人が持っている宝具、アレこそが彼の努力の証。
過保護にも程がある? 私も何度も言いましたが彼は頑なに譲らなかったので、仕方がないのですよ。
そこから私は弓を扱うようになり、射れば必ず当たるまでに特訓したが、燕青の仕業で指揮官として戦場から離れたところで指揮棒を持って指示するだけとなり、弓を披露する機会はあまり恵まれず、父が急死した為に実家に戻り家業を継いだ。
昔の伝手で国の情報が入るようになり、国一番の情報屋としての側面を持つようになった私の傍には常に燕青がいて、彼は私から離れようとはしなかった。
例え私が男の姿になってもそれは変わらずで、過保護もいい加減にしろ。と詰め寄っても、屋台を奢ってくれだとか、酒がうまいだとか、賭博に行くだとかで取り合ってくれず仕舞いだった。
生前の事を成るべく簡潔にマスターとアルトリアに話すと、マスターはげんなりとした表情を浮かべ、アルトリアは目を輝かせていた。
「いつかランサーで現界した名前と手合せ願いたいものですね!」
「クラスの相性的に私の方が不利ですが、負けるつもりはありませんよ。これでも私連戦連勝の槍使いですから」
「いやいや、それよりも、燕青の過保護っぷりでしょ……だって男装を進めたのだって、一端な理由つけていてもあれは完全なるっ!!」
そんな話をしている最中、マスターの言葉が途切れると同時に、マスターの頭が何者かの腕によってテーブルに急接近した。藍色のガントレットは間違いなくアサシンのもので、悪気のない彼は暢気にマスターに向かって挨拶をしている。
「よぅマスター、調子はどうだー。ん? 何か美味そうなもの食ってんな。俺にも分けてくれろ」
「アサシン、エミヤがまだ作っている筈だ、そこから貰うといい」
「あー。俺あの弓の旦那苦手なんだよなぁー」
苦手になるほどエミヤとアサシンは接点があっただろうか。と首を傾げても私とアサシンはあの頃の様に傍にいる訳ではないのだから、預かり知れぬところで接点があったに違いない。と頷きナイフとフォークを使ってエミヤ作のパンケーキを一口大に切り分け、アサシンに向かってフォークを持っている腕を伸ばした。
「私のでよければ分けてあげましょう。さぁ」
すると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたアサシンは、マスターの頭の上から腕を退かし、テーブルに手を付いて上半身を傾け一口大のパンケーキを口に含んだ。満足そうに笑うアサシンは昔から楽しい事や美味しいものが好きだったな。
そんな事を思い出しながらマスターに声をかけると彼女は、困ったように笑っていた。
「燕青って案外わかりやすよね」
「俺の事わかった気でいるのかい? それはまだ時期尚早ってもんだぜ、マスター」
「そうかな」
願わくは、この穏やかな時間が続きますように。なんて、願ってはいけない願望を悟らせない為に微笑んだ。