……が、この感じ。肌に感じるこの空気はきっと間違いない。
「“立香。無事に着いたようだね”」
「うん。だけど此処がどの時代なのかは分からない」
「マスター……此処は私が生前暮らしていた国で間違いありません」
ここは私は生前生きていた国で、同時に彼が生きていた国でもある。新宿のアサシンの方を見ると彼は私の方を見て少し泣きそうな顔をしていた。どうしてそんな表情をするのか聞くだけ野暮だろう……私が死んだこの国にもう一度来ることになるとは思ってもいなかっただろうし、覚悟だってしていなかった筈だ。
「誰か来ます……!」
「取り敢えず草むらに隠れよう」
マシュの一言に私たちは近づいて来る何者かから姿を隠した。馬の足音がするが単騎らしく一頭分の足音しかしない。草むらから少し顔を出し馬に乗っている人物を見て私は目を見張った。馬の上には“私”が乗っていて、その横にはアサシンが歩いている。
「っ!」
「……なんで、この時代なんだよっ!」
私の隣にいたアサシンが小声で悔しそうな声を上げた。
この時代にこの二人がいると言うことは、私がまだ生きていた時代で、笑い合っている“私たち”はこれから死に別れ、後悔と嫌悪と懺悔が二人を隔て、真っ直ぐ相手の目すら見ることが出来なくなる。
馬は私たちに気が付かずその場を通り過ぎ、息を殺していた私たちは草むらから出て軽く息を吸った。
皆だってあの馬上の人物を見ていただろうが、それが私だとは思わないだろう。今のサーヴァントとして召喚された姿は本来の性別である女の姿だが、あの馬上の“私”は男の姿だ。それでも隣を歩いていた男は今のアサシンと瓜二つで、この時代についてマスター含め皆が理解しただろう。
「アサシンの話……本当だったんだ」
「先輩?」
「名前って本当は男……なんでしょう?」
「はい?」
アサシンが名前は男だって……。
その言葉に私は隣に立つアサシンの顔を睨みつけた。私の性別が女だってことはこの男が良く知っているのに、なんでそんなくだらない嘘をマスターに吹き込むのか。そう問うたところで、この男が私に本心を話すとは思えない。今大事なのは、マスターの誤解を解くことだ。
「違いますよ。私は女です」
「今は、ってことだよね?」
「生前より私は女ですよ……期待に沿えなくて残念ですが、マスターはアサシンに揶揄われたのですよ」
「え?!」
それよりも、とMr.ロマンが話を変えこの話は流れたが、マスターのアサシンを見る目は悔しそうで溜息を吐いた。
「“確認するけどこの時代は名前と新宿のアサシンが生きていた時代で間違いないよね?”」
「あぁ」
「間違いありません」
まさかこの時代が特異点になっているなんて思わなかったが、恐らく本当の流れと違う流れをするのであれば私が死ぬか否か場面だろう。元々私は商人として旅をしていたのだが、そこで捨てられていた新宿のアサシン……燕青を拾ったのが出会いだった。私は父の店を継ぐ為男として生活していたのだが、その店が繁盛し輩に命を狙われることが多くなり、たまたま燕青を見かけこれはいいと雇ったのだが、私の予想以上に燕青は腕が立つ人物だったようで、どんな時でも私のことを守ってくれた。色んな所を二人で旅をし、色んなところに顔が利くようになった。
私は玉麒麟と呼ばれ、燕青は浪子として名を馳せた。しかし、女連れで歩くと不必要に狙われ旅の時間を無駄にさせてしまうことが多く、気落ちしていた私を見かねた燕青が、男装したらいい。と助言してくれたから私は男装するようになったのだ。
だからアサシンは私の性別を間違えるはずがない。
「どうしてこの時代が特異点になってしまったのか、は何となくですがわかります」
「名前?」
「私の存在がその時代を変えるものだから」
「それって……どういう……」
「兎に角、“私たち”の後を追いましょう」
マスターは頷き立ち上がって、行こう。と声をかけた。しかしアサシンは俯いたまま動かずそれを見かねたマスターが彼の手を引き、無理矢理立たせ歩き出した。
今彼がどんな表情をしているのかはわからない。ただ、マスターに引っ張られ力なく歩いているだけだった。
「“移動中で悪いけど、名前。君の考えを教えてくれないか”」
「恐らくですけど、高毬と言う人物が関係しているのだと思います」
その名前に反応したのか、アサシンの手を掴んでいるマスターが、彼に向かって、知ってる人?と尋ねた。するとアサシンは何も答えず俯いている。
「私は高毬に取引を持ち掛けられたのです。皇帝に気に入られろと」
「どうしてですか?」
「彼は野心家でしたので、私を利用しようとしたのでしょう。私はその話に乗りました……家族を人質に取られていたのでね」
そう言うとマスターは立ち止まり、私を見て教えて欲しいと言ったのだ。
「名前の過去を全て教えて欲しい」
「……長くなりますよ」
「大丈夫。私はこれ以上2人が悲しい顔をしている所を見たくはないから」
Dr.ロマンもマスターの意見に賛成し、私は生前のことを口にした。時折アサシンの方に目をやるが彼はマスターに手を繋がれたままで、力なくただそこに存在しているだけだった。