気になる所しかない
私と彼の歳の差は5,6程違う。私が学生の時は既に彼は成人していて社会の中で何かに属していた。
今更何でこんな事を考えているかと言うと、私の視界には勝己さんの背中が映っており、その横には何やら親しげな女の人がいる。とても綺麗な女の人なんだろう。後姿しか見えなくとも微風や歩く振動で僅かに揺れる髪が艶やかで手入れが行き届いている。腕も足も細過ぎず健康的な太さだ。勝己さんの方を見る時にちらりと見える横顔は女の私からしてみても綺麗な顔立ちで大人だ。
対して私は成人しているとはいえ社会に出てまだ2年も経ってない。まだ学生みたいな幼さが抜けきらない。
ようはまだ子供なのだ。
なんてあの2人はお似合いなのだろうか。
絵になるとはこういう事を言うのか。
2人の後ろ姿を見ていたくなくて私は来た道を退きかえした。勝己さんの部屋と向かい合う玄関。何度もお部屋に入ったしなんなら鍵だって持っている。あの時は本当に嬉しかったし昔よりも勝己さんに近づけたんじゃないかと思った。なのに、さっきのあの光景がチラついて遠く感じる。
「勝己さんは私なんかよりもずっと大人なんだな…」
「そりゃそーだろうが」
突然勝己さんの声が聞こえて思わず肩をビクつかせた。咄嗟に振り返ると気怠そうに私を見ている勝己さんがいて彼は私の手を取り、自身の部屋の鍵を取り出し扉を解錠して中に私を入れる。パタンと音を立てて扉が閉まるよりも早く勝己さんが私に覆いかぶさり腰と背中に彼の鍛え上げられた腕が回る。
「勝己さん?」
「黙ってろ」
「酷いですね」
名前を呼んだだけで黙ってろと言われる。大変理不尽極まりないのだが私はそんな事よりも気になる事があった。
「勝己さん何でここに?」
「あぁ?!自分の家に帰って来ちゃ駄目なのかよ」
「そうじゃなくて…あの、あの女の人はいいんですか?」
覆いかぶさっていた勝己さんが私から少し距離を取って視線を寄こす。その瞬間女の人の事を聞いてしまった事に後悔した。誰と交流あろうがそれは勝己さんの自由で私が制限をかけるものでもない。それに束縛して勝己さんに嫌われたくない。
捨てられたくない。
「ごめんなさい。気にしないでください」
「あ?」
「変なこと聞いちゃいましたね」
勝己さんは私をよく甘やかす。必要なタイミングで私に必要な事を、だ。甘えろ。と勝己さんは言うけれど私は彼に甘えられたことが極端に少ないように感じる。私が子供だから勝己さんが甘えられないのだろうか?あの綺麗な女の人が相手だったらもっと勝己さんは甘えていてくれたのだろうか?
歳の差はどうして埋まらないのだろうか。
「やっぱりお前あの場にいたんか」
「え?…あ…」
「俺がお前に気づかねぇとでも思ってたのかよ」
あの時は勝己さんの後ろ姿をたまたま見かけて、声をかけようとしたところにあの現場を見てしまいそのまま声をかけることなく家に帰って来た為勝己さんは私の存在なんて気が付いてないと思っていた。
正直に首を縦に振ると彼は態とらしく溜息を吐いた。
「あの女を見てまた変なこと考えてんだろ?無駄だから捨てちまえ」
「無駄?!それ、どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だろうが」
私が何を考えているのかもわからない癖になんでそんな事を言われなきゃいけないのかと、勝己さんの胸に手を当てて腕を伸ばし押し返す。すると勝己さんは抵抗なくすんなりと離れていき顔をあげると意地の悪そうな表情をしている勝己さんと目が合う。気が付けば自然と口が開いていた。
「私は子供なんです。そんなのはわかってるんです……今日綺麗な女の人と歩いている勝己さんを見て私、こう思ったんです。私とは違ってお似合いだな…自然だなって」
「んなもん関係ねぇだろうが」
私の手を引いて玄関から室内に入り壁に勝己さんが私を押し付け、剥き出しの首筋に歯を立てる。遠慮なんかないそれに痛みで思わず声が漏れる。ぬるりとした舌が下から上に首筋をなぞるように舐める。
「か、勝己…さん?」
「関係ねぇだろうが。俺はお前が良いつってんだからよ」
「でも、私はまだ子供でっ」
私の言葉を遮るように勝己さんが口を塞ぐ。そして低く唸るような声でもう一度黙れ。と私に言った。
「俺はお前がガキの頃から知ってる上にそのガキを手に入れたかったんだ!!歳の差なんて関係ねぇだろうが!あ!?どう足掻いても埋まりもしねぇもんに気ィ取られてる暇があんなら俺を見てろ!クソが!!」
えっと、つまりそれは…どういう意味だ?
「勝己さん」
「こっち見んなクソが」
私の目の前には首筋に牙を立てた男の人はもういなくて、顔を仄かに赤く染めている男の人がいるだけだった。
勝己さんが顔を赤く染めている事が衝撃的で、つい見入っていると大きな手が私の目の上を覆い目の前には暗闇か広がった。甘い匂いがふわりと香り肌に感じる熱が沈んでいた気持ちを浮上させる。
きっと、こんな表情を見ることが出来るのは私だけだ。
埋まらない歳の差に嘆くよりも私は勝己さんに少しでも近づけるように努力しよう。そして勝己さんだけを見つめていこう。それは彼の願いでもあり私の本望だ。
甘い匂いを発している手を目の上から退けて満面の笑みで勝己さんを見る。
「勝己さん!私が貴方を幸せにします!」
「椿てめぇまだそんなこと言ってんのか!!」
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