――所謂生殺しとは、斯くも真綿で首を絞められる心地なのか。


「全く、暢気なもんだなあ」


嘆息が一つ、言葉と共に零れ落ちた。眼下には薄い麻織りの掛布一つを纏って、肌着めいた服装で眠る己が主の姿。数刻前も通りしなに横たわる彼女の姿を見たのは気の所為ではない。


「…いくら夏盛りで暑気に耐えかねるからって、んな格好で随分ぐっすり寝入りやがって」


そも、昼寝なんぞに向かないだろう。じりじりと、太陽が視界の外で焼き付けている気配がする。そうだ。一等暑さの激しい盛夏の昼過ぎ、午睡に耽るには薄着にならないといけない。寝苦しそうに寝返りを打つ彼女の白い首筋から汗が伝い落ちるさまが、こうも薄着ではよく見て取れた。


今すぐにでも汗ばむその首に、舌を這わせてやれたならどんなに胸が空くことか。舌で舐り唇で食み吸い上げて、彼女の知らぬ間に白い肌へと痕を残してやれたならば。――何をされても、文句は言えんぞ。言葉にしなかった続きを胸中で呟く。ふつふつと湧き上がる、浅ましい欲の捌け口にする為に。


「ほら、大将。とっとと起きねえと八つ時の西瓜を食い損ねるぞ」


秘めたる物とは裏腹に、からっと健全な声音を部屋に響かせる。この大将に恋慕と情欲を向けてなお、変わらず傍に居るために不可欠な取り繕いがもう随分上手くなったものだ。愚図って逃れようとする彼女に起きろと矢継ぎ早に言った。頼むから。無防備なままで居てくれるな。


直に揺することは、流石に躊躇われた。今触れてしまえば、善良ぶったこんな上辺は全て、容易く瓦解すると奇妙な確信があったからだ。


「ん、んん、…」

「お目覚めか?」


ぱちり。開かれ、しかし再びとろとろ閉じゆく瞼。寝返りまでも打とうとして夢路に沈もうとするのを許さない。ぼんやり、起き抜け特有の不明瞭で定まらないその視界に、時計を突き付けてやる。やがて思考がはっきりしてきたようで、時針とこちらに恐る恐る視線を彷わせ始めた。


「俺の言いたいことが分かるよなあ、大将」

「わたしは仕事が溜まっているにも関らず、少しだけ昼寝をしました。ごめんなさい」

「俺が最初に寝転んでるのを見かけてから、今できっかり三時間だ。三時間が少しなもんかよ。…ほら、もう広間に行かねえと冷やした西瓜もぬるくなる。早く行って戻って来い。戻って来たら、手伝ってやるから」

「はあい」


こちらの気も知らず無防備に寝顔を晒していた本人は、そんな気抜けする返事を残し大人しく起き上がって障子戸に手を掛けた。その頭部に、己の白衣を掛ける。白衣は小気味良い音で彼女の丸い頭をすっかり覆った。


「薄着過ぎだ莫迦」


気恥ずかしそうに白い上掛けを纏って足早に去るその背を見送る。俺はと言えばようやっと自制の糸を緩ませて構わないという安堵から、静かに息を吐いた。


…ぱたぱた。緊張感から開放されたそんな矢先。遠くからこの部屋に舞い戻ってくる軽やかな足音を耳が捉える。半端に開け放たれた戸の隙間から破顔した大将が顔ばせを覗かせた。


「薬研くんの分も取ってくるから、部屋で一緒に食べよう」


……本当に、人の気も知らないで。




特有の水っぽい甘やかさが含んだ口のみならず、部屋にまでも立ち込めるようだ。爽やかな香りがする。酷暑の炎熱に暫し晒されていた口当たりは、しかし未だ火照りを収めるのにほどよい冷たさを孕んでいる。


一通り食べきって眼がちらりと主の姿を求めた。眼前で種と格闘している、大将の指先からうす赤い果汁が伝っていく。些か目に毒過ぎる。今ばかりでなく、この人は毎度そうだが。信頼か鈍感か、自覚のなさからかあけすけな姿を見せつけられて、どうして俺が牙をその喉元に食い込ませずに"待て"出来るままなのか知りゃあしないだろう。どんな気持ちで涎を垂らしながら、我慢してると思ってやがる。がり、吐き出し損ねた種が嫌な音を立てる。底が見えない黒々とした感情を、この種宛ら噛み砕いてんだよ。


すっかり種と皮ばかりになった西瓜の名残が一枚、皿の上でぼんやり温まる頃。俺の無聊の慰みと視線を受けて、居心地が悪そうに彼女も最後のひとかけをすっかり口に収めていた。ぺらり。緑と黒の縞模様が二つ交差する。大将の分は脇に種もそっと添えてあって、皮に付く果肉の色合いは殆どなかった。


「あんたは、存外丁寧に食べるよなあ」


濡れた手拭いを投げて寄越せば、冷やかで心地良いのか目を細め染まった指先と手首を拭う。最中、俺の褒め言葉ともつかないただの感想を反復し、嬉しそうな面映そうな顔ばせを向けてきた。


「薬研くんの前じゃ、余計にちゃんとしないとなって思って」


俺が顕現されて以来些細なことでこの人を恋い慕っているように、この主もそれとなく俺の事を恋うているらしい事は周知の事実だった。俺達は互いに探られても痛くない腹を、後生大事に抱えてる。抱えて抱えて、前の主達のようにこの先取り返しのつかない場面になって、ようやっと俺は我を通すのか?

何時ぞやかが思い起こされる。


連れ立って万屋に買い出しへと向かう道すがら、野暮用と一人ふらり道を逸れた大将の背を見送って、半刻過ぎた頃だったか。野暮用にしては少しばかり時間がかかりすぎじゃないかと、不粋を承知で傍道を覗いた。道半ばに、彼女が無体に見知らぬ男の手で触れられる姿を眼に映した瞬間、戦場でもああは熱くなるまいと思えるほどに、その時ばかりは目の前が怒りからかっと赤くなった。人の物に触れるんじゃねえよ。と、無言のまま下卑た男の腕を掴んで捻る最中で、己の咄嗟のその考えの誤りに恥じ入る分余計に力も籠る。


「……この人は、お前が狼藉を働いて良いような人じゃねえんだよ」


失せろとそう眼光鋭く骨を轢ませてやった。手首から先を失いたくないならば、二度と現れるな。逃げ去る姿にそう吐き捨てた。こいつは俺の物だと、言いかけた言葉は苦労しながら飲み込んで。こんな徒労を味わわせた張本人に、その場で八つ当たり混じりに厳しく諫めたことだとて、よくよく覚えている。



「薬研くん、聞いてる?」


在りし日の悔しさと恥をなぞって、諸々生返事になっていたらしい。呼びかけと共に手首を掴まれ俺の身体を戦かせる。拭いたての掌がほんのり水気を帯びて、冷やこい。この人がこうも気安いのは俺の気を知らんからだと、この人の目には俺の振る舞いに綻びなどないように映っているからだと、思えば苦しくもあった。


ああ、今すぐ掴まれた腕を払って、逆に掴んでやりたい。手を引いて、容易に体勢を崩す彼女の唇を奪っちまおうか。


「なあ、さっきの。俺の前じゃ、ってどういう意味だよ」


堂々巡りはとうに腹に据えかねていて、奥へ奥へ沈めようとしたとて、こうして腹の底をあんたが手で掻き回す。こちとら延々目の前に肉を吊り下げられている餓狼だ。容易く揺らいでその度飲み込んで、余地なんてのはもう何処にもないってのに。真夏の暑さで頭が茹だったとも知れない。


はたはた、俺の言葉の意味を捉えきれず呆然と瞬き光を溢す双眸を見送りながら、翻した手で腕を引いた。お望みであろうとなかろうと、見せてやろうか。俺の、飲み下してきた我欲と醜さを。あんたは、人の気も知らないで。ああ、全く。


――本当は、あんたの全てを掻っ攫っちまいたいんだよ。




*--------------------*




夕餉の頃は酷く騒がしかった。やきもきと余計な気を揉んでいた奴等、皆揃って大喜びだ。厨当番なんかは俺達がやっと恋仲になったのだからと赤飯を炊こうか本気で悩ましげに持ちかけてきたもんで、丁重に断らせて貰った。次から次へと酒盃に注がれそうになり、余計な気を回した古参の刀がそれを諭した。夜に障るとは、全く。既にその時同衾の約束を交わしていて、真に余計な世話だと言えなかった辺りがどうしようもない。


約束通りの刻限、押し退けた戸は小さく音を鳴らした。昼間と打って変わり、行灯だけで照らされた彼女の部屋では、今度は大将が緊張感に苛まれているような顔だ。昼間俺が叱ったからか、かっちり着込んだ寝間着が薄着とはまた別の風情でそそられる。叱っておいてこれか。本当に俺はどうしようもないらしい。黒い手袋を引き抜いて、抜け殻を脇に落とす。そのまま近寄ろうとした。近寄ろうとしたが、傍へと向かう分向かう分、じりじりと下がる主の姿に埒が明かない。もう端から相手の覚悟は諦めるとする。


近寄る度に往生際悪くも逃れようと身を捩る腰元へ手を回し、くっと抱き寄せる。不安と期待を綯い交ぜに、行灯の明かりごと揺らめく眼が俺を逸らせて敵わない。ああ、胸部の下着は付けていないのか。それとなく弄り、こうして部屋に入るまでに如何な葛藤が彼女にあったか、思いを馳せながら、抱いた五指でなおも藻掻く大将の背筋をなぞる。


「逃がす訳がねえだろう」


事実を口にしただけの筈だったが思いの外、己の声色が歓喜混じりに欲を滲ませる低さで鼻先を鳴らし自嘲する。そのまま彼女の寝間着の上前を広げ、捕食するように牙を喉元へ埋めた。そう痛くないだろうに。食い込む犬歯越しに喉の戦慄きが感じ取れる。こうして恐怖も愛情も、肉体も血液の一滴に至るまでが己の物だと差し出されて、未だ飢え乾いた獣は足りないと俺の腹で吠えていた。


「薬研く、ま、まって」

「待つかよ」


待たない。もう十二分に待ってやったろう。待ってやって歯噛みするような悔しさと恥に耐え忍びもした。そしてやっと、あんたが俺の手の届く所に転がり込んできた。それで、そんな状況で歯止めが利く男じゃねえよ、俺は。いや、違うか。歯止めを利かせているからこんな物で済んでるんだろう。


好き勝手が許されんなら、あんたの意思なんぞは歯牙にもかけない。本当は、こうして引き倒したならば、全身を噛んで吸って啜って、泣こうが嫌がろうが止まらずむしゃぶりついてるんだろうぜ。大将。


口を離せばじっとりと、歯型が赤く残された。少しだけ満たされたようでその実呼び水だ。欲深さに際限なんてない。鎖骨の窪みのほど近くに強く吸い付き、胸の膨らみへと手を伸ばす。恥じらいから逃亡を図りたがるあんたの、首筋に逃れようもないという事実を刻みながら。


膨らみの頂点を態とらしく外し、胸の柔らかさを楽しみながら熱持つ掌で形を変えて遊ぶ。


「っん、!ぅ、ッふぅ」


唇を結んで我慢したとて鼻から甘く抜けていりゃあ世話ない。そういう理性が一層こちらを昂ぶらせるのだと、少しは学んだらどうだ。もう痕を幾個散らしたろう。首元で唇を遊ばせながら、肝心な所には触れない。形の良い乳房に指先を沈ませて、持ち上げて稀に期待する場所を掠め、追い立てる。


「ふゃ、ン、ん、ゃだ、」

「たあいしょ。胸を弄られんのは嫌いか?嫌いじゃあ、ねえよな。物足りなそうに胸を揺らして、無意識でも俺の掌に押し付けてきて」


首を横に振り俺の言葉を否定しはするが、なおもはっきりと声を上げない。声を漏らさないよう、強請らないよう、と堪えるそんないじらしさをへし折ってやりたくなる。


「そんな、っこと、ぁ、やぅ」

「そんなことないってんなら、今ここで俺はやめたって構わんが。ああ、じゃあこうしよう。ここから先は俺の一人遊びと、あんたが身体を貸してくれりゃあ良いさ」


そんなことを許しはしない気質を知っていて、言葉に外連味を含ませた。返答を聞かず、打って変わっての性急さで既に兆し始めていた胸の天辺を指の腹で擦り上げる。


「ッふ、あ、ぁ…!」

「胸は良くないんだろう?なあ、大将。その割に、随分と俺の一人遊びで具合が良さそうだが」


先端を指できゅ、と摘んで時折爪で引っ掻き繰り返し擦る。痕ばかりを残していた唇も、いやらしく揺れる胸に堪らず吸い寄せられた。指で甚振って居る方とは真逆の胸を、あぐりと食む。首元とはまた違う柔肉の感触に自然と眼が細まる。べろり。舌の細胞一つ一つで彼女の乳を味わい、弄んで仕上げに吸った。


「あ、っぁ、も、やだ、あ」


逃れようという意思を見せれば仕置きがてらに犬歯で、胸先の一等敏感な部分を噛んでやった。


抱く腕にも伝わるほどに、ひくんと身体が跳ねる。押し上げ、引っ張って、捏ねくって、優しく撫で、舐め上げて、引っ掻いて、噛み付いた。偶に酷くされるのがイイらしい。そうするとまるで気をやったみたいに腰を揺らす。このまま甚振っていりゃあ、乳でも出せるんじゃねえかと思えるほどに遊んでから、ようやっと離してやった。


ひく、ひく、と先端までも小さく震わせる乳房は、赤くふっくり主張している。ちと嬲り過ぎたか。こちらが股座を硬くさせている以外は全く乱れていないのに比べ、横たわる彼女は胸以外殆ど触れていないにも関わらず、眦に涙の名残を光らせて酷く熱く荒い呼吸を繰り返していた。そんな大将の額に口付ける。


「可愛いなあ、大将」

「ふぅ、ッは、ぁ、…やげん、くん、わたし嫌だって、っ言ったのに」

「んな事も言ってたか」

「む、胸ばっかり……すけべっ」

「そりゃあな。嫌がったろう。他でもないあんたが。嫌がられたまま押し通すんじゃ、芸がねえ。ちっとは胸を遊ばれるのも堪らんと、素直にさせてみようかと思ってな、はは」


口付けたばかりの汗ばむ額に、纏わり付く大将の前髪を慈しみを込め横に流してやる。


「嫌だと思っていた事すら思い出せなくなるまでに、夢中にさせんのが手練手管ってやつだぜ。なあ、大将?」


耳の側近くへと唇を寄せ、――あんたの好きな男は、あんたの想像しているよかうんと助兵衛なんだ――そう囁き笑う。なあ、あんた俺の低い声に弱いんだろう。分かってんだよ。


抱いている手で腰を今再び撫ぜてから、腕を抜く。大将は、逃げる気力もなさげに褥へくったり落ち着いた。そんな姿を見下ろしながら衣服の合わせに手をかければ、俺が灯した熱が蒸気する肌が眼下へと露わになる。不安げに擦り合わされた足の付け根へと自然に目をやって、酷く意地の悪い声が出た。


「人のことを助兵衛だのと言ってくれたが、大将。こりゃなんだろうなあ」


下着越しからでも濡れそぼっていると分かるそこへ、指を埋める。力を込めずとも容易く這わせた指先が相手の愛液でしっとり湿り気を帯びた。


大将はと言えば、問いかけと俺の行いが余程恥ずかしいのか、顔で手を覆って「*う、」と唸るばかりだ。へえ、そうかい。はっきりと、声を上げて答えられぬというならば。鳴かない雁も時鳥も――どうなったか教えてやろうか。


手早く最後の砦だった白さがそそる下着を取っ払う。とろり、そうおあつらえ向きに熟れている秘所へと直に触れた。


「んッ、ぅ」

「たあいしょう、声出せよ」


蜜を指先で絡めながらほとの突起めいた性感帯を優しく撫ぜる。付け根から先へ、先端から根元へ。指で撫で上げ輪郭をなぞり合間に上がるくぐもった声を咎めた。


「っや、だ、て恥ずかしッ、ん、」

「なあ、俺達はこれからもっと、その恥ずかしいことってのをするんだぜ。大将、そう我慢してちゃあんたの身体が保たんと思わねえか」


熱に浮かされて大概正常な判断がつかなそうな彼女に畳み掛ける。


「それに、俺とて何も意地悪く言ってる訳じゃあない。好きな相手の可愛らしい声は、幾らでも聞きたいのが男心ってもんさ」


詭弁だ。意地悪く言ってるに決まっている。身を案じていると、可愛らしい声を聞きたいと真実の内ではあるものの。それ等全てが本心な訳ではない。羞恥心やら理性やら、俺の言葉を言い訳に余分な感情を捨て去って、骨の髄まで俺のことを感じていれば良い。せめてこのひとときは、皆の主ではなく俺の女として。俺のことばかりで、支配されていてくれ。


俺は、あんたが思っているよかうんと助兵衛で、あんたが思っているよりずっとあんたが好きなんだよ。


親指で突起を可愛がる最中に、中指をくぷと鳴らし蜜壺に忍ばせた。


「ぁ、ふあッ、!」


不慣れなナカに指を埋め壁を擦る感覚で、彼女の身体が大きく身動ぐ。動くたび動くたび、たぷん。そう揺れる胸がひどくいやらしい。


「や、ゃっ、まって、だめ、それッ、だめ、だからッや、ぁ」

「駄目じゃ、ねえだろ」


言いきり誘う双丘に齧りついた。吸い上げ歯を立てながら、中指をまるで己自身に見立ててゆっくり抽送していく。どこでより良い反応を見せてくれるのか。不慣れな蜜壺はきゅうきゅう指が滑る度に絡みつく。ちろり、胸の天辺を舐めつつ、顔ばせを覗き込んだ。


「ッ!あっ、そこ、ぁ、っや、…!」

「お、っと。あんたはここが好きか?」


角度を変えた瞬間に、掠めた所がイイらしい。その一点目がけ、抽送を止めた指の腹でぐり、と押し上げるが如く愛撫する。ひくん。ひく。先程より絡みつく肉壁と、戦慄く大将の内ももから絶頂の近さを悟る。ナカの性感帯を止め処なく擦りながら親指で肉芽を構うことも忘れない。加えて、ぢう、胸の頂点を品なく音立て吸い上げた。


「ひゃ、ゃ、ぁめ、っきもち、やげ、きちゃ、ン、ぁッ」

「たあいしょ。イく時はイくと、ちゃあんと言えるよな」

「ッん、あ、ァ、あっ、や、イく、イっちゃ、ぅ、あ、ぁ、あっあ、!」


足先までぴんと伸びて喉元を惜しげもなく晒し、弓なりで快楽を逃そうとする姿。それを傍目に、きゅうきゅう幾たびも痙攣する蜜壺へ薬指を差し込み増やし、再び動かし始める。


「や、んッ!やげんく、も、ゃらっ」

「そうかそうか、気持ちいいなら重畳ってもんだ。あんたが望むんなら幾らでも指で弄ってやろうな、大将」


本心を知れども嘯き、柔く笑んでやれば途端に彼女の眼が狼狽え彷徨った。くちり。曲げて動かす。止めて動かす。指先が埋まる場所が何度目か知れない淫猥な音を上げる。


「ふ、ぁ…、ッ…指だけじゃ、たりな、んぅ、」


ぐずぐず本音を嬌声混じりに漏らす姿に、細めた眼差しを注ぎ、続きを促す。


「どうした?指だけじゃ足りねえのか」

「足りな、は、ぁ、っん、ん、やげ、んぁッ、ちゃん、と、ほし、っふあ」


聞き届ける直前で責め立てていた指二本を引き抜いた。とろんと蕩け見上げる目に、見せつけるように愛液に濡れ光る指先を己の口内に運ぶ。舐る。舌を這わせ輪郭をふやかし、内側を抉っていた指の根元からを、丁寧に舐る。終いに緩やかに中指と薬指を解放し、指先に口付けてやった。


「っな、!なん、なに、やげんく、いま」

「はは、ご馳走さん。あんたは何処もかしこも美味いぜ、大将。そんで?」


“ちゃんと欲しい”んだったか。じゃあ、どうしたら良いか分かるよなあ?そこまで囁いて、顎で示す。示した先では至極窮屈そうな様子で洋袴越しに、自身が主張していた。


惑って静止する大将を置き去りに、釦を一つ二つ三つと外し着慣れた墨色の洋装を脱ぎにかかる。やがて大将もこちらの下腹部へ、恐る恐る手を伸ばしてきた。覚束ない手付きが優しくそこへと触れて、息が詰まりそうだ。


「男慣れしてない女にゃ、ちと難しかったか?」


余裕のなさをおくびにも出すまい。発破をかけながら最後の釦を外しどこぞへ襯衣を投げ捨てる。負けず嫌いな彼女は、そして腹を括ったらしい。留め金に手をかけ洋袴を引き下ろした。


…下着越しに、温かい吐息がかかる。伏し目がちで、恥ずかしそうに震わせる睫毛が俺の支配欲を煽った。ぱさり。終いと引き下げられた服が呆気なく音を立てて落ちる。僅かな一瞬の躊躇いと共に下着をも指にかけた大将の眼前へ、抑圧されていた陰茎が自由を求め、ぶるりと差し出された。


「ひゃ、おっき、…どうしよう。薬研くん。…入らなかったら」


ばあか、口の動きだけでそう伝えて愉快さに喉を鳴らす。


「なんの為に可愛らしく鳴いていたと思ってんだ。まだ物欲しげにひくつかせてるあんたの其処が、寂しくねえようにちゃあんと可愛がってやるから安心しろよ」


興味本位に続けざま伸ばされる手を避けた。大将の足元へと回ればその片足を掴んで肩の上で捉え、未だ濡れそぼって誘う泥濘をじいっと眼で見据える。


「や、も、恥ずかしいから、薬研くん、…早く」


答え代わりに先を促す言葉に悪人ぶった表情で笑いかけるのみで、魔羅の頭部を入り口に押しつける。そのまま、沈ませずくちゅりと音を立て上滑りさせた。くち、くち。性器同士擦り合う形になり僅かに先走りが溢れる。


「あッ、や、ん、ぁ、ちが、」


擦り上げる度にぬち、くちゅ、と水音も上がった。大した快楽を受けた訳でなくとも自然に息が徐々に荒っぽくなる。


「っは、大将、本当はこれが何処に欲しいんだよ。なあ、……言えんだろ」


雁首でほとの突起を弾く。先走りと愛液が混ざり合いどちらともつかない液体が陰茎に纏わり付いて、てらりと行灯に光り返す。相手が言い澱んでいる間に、擦り付け時折ぐりぐり肉壁の入り口に戻り先端を押し付けては楽しんだ。


先が沈みきらない内に亀頭をくぽ、と間抜けな音を立てつつ引き抜く。こちらも、余裕そうに見せかけて存外ぎりぎりの戯れだ。


「ハっ、」


吐息が漏れる。生殺しならば当然か。今すぐにでも、この無防備な女の肉壁を貫いて滅茶苦茶にしてやりたい。嫌だ、駄目だと言われたとて捻じ伏せて、好きや女を俺の手で汚してやりたい。


だが力で捻じ伏せるより自ら屈伏させて招き入れさせて、逃げ道なんぞは一つもないと知らしめる方が良い。ああ、そうだ。何処にも行けやしないんだよ。大将、あんたが何処に行こうと誰と寝ようと、二度と俺でなければ満たされないよう、全身余さず作り変えてやる。


「ん、ぅ、うぅ、ッいじ、わる…、っ、ここ、ナカにほし、ゃっ」

「分かんねえか。そんなんじゃ足りねえって言ってんだ。堕ちて来いとそう言ってんだよ」


押し付け遊んでいた先端を、腰を引いて秘所から離す。


「ッ、ま、って…や、も、ぅ、さみしっ、やだ、きもちよく、…ッめちゃくちゃに、ふ、して、…!」


ぱき、ぱき。そんな音が聞こえて来るようだった。大将の矜持や羞恥心が快楽の前に砕ける、その音が。涙を滲ませて乞う彼女の眦へと唇を寄せる。


「不合格。……は、だがまあ、あんたにしちゃ頑張ったんじゃねえ、っか!」


言葉を言いきるが早いか、ずぷんと俺の肉欲を体現し膨らむ魔羅で貫いた。


「あっ、!…ふ、ァ、あ、いきなり、も、おっき、ぁッ」

「待てを食らってたのが、何も自分ばかりと、…ふ、ぅ、思って、くれるなよ」


泥濘んで、柔らかく、温かい。揺すり嬌声が上がる度に包み込む肉壁が至福の心地で、堪らず熱く息が漏れる。ああしかし、あれほど焦がれて、耐えてきた一線を超えた。そうすれば満たされるものと思っていた。なんの憂いもなく。現実はと言えば欲深さはなお焦げ付くような苛烈さで、燃え上がるばかりだ。全く足りない。言葉にせずとも奥へ奥へ、突き上げを繰り返し貪ってそんな動きであんたに伝わっているか?
腰をゆっくり引いて、肉がぶつかり合うほどに打ち付ける時は激しく。そういやここが好きだったな、と時たま思い出したように気紛れにイイトコロ、を掠める。


「ひ、ゃ、そこッ、すき、ん、あ、ぁ」

「気持ちいいんなら、っは、男冥利に尽きる、ってもんだ」


上機嫌に漏らして、つぅ、と首筋から伝い落ちる汗へと目が行く。なんでこうも、首からぽたりぽたりと滲んで褥へ落ちるさまが、堪らねえのか。


抉る動きを緩やかに、今度は敏感な箇所へと亀頭を押し付けて、そのまま汗が伝う首元へと舌を這わせた。


「ふゃ、っ…!ぁ、くび、舐めちゃやだ、ゃ、ぁ」

「はは、ッそりゃあ、諦めてくれや。なあ、たいしょ」


塩気のある汗の余韻も程々に、俺の唾液に塗り替えられた首に、優しく、鋭く、牙を立てる。首輪などない己の凶暴さを鎮める為に、この甘やかな柔肌を味わうより他ないらしい。


「ナカも、外も、あんたの身体は、もう俺んだろう。全部、ふっ、…俺の匂いに染まっちまうまで、離すかよ」


弱い所で嬲り留めていた魔羅をずん、と深くまで押し込んで、拍子に戦慄く肉壁が締め付けてくる。少しでも気を抜けば、快楽に支配されて持っていかれそうだ。


「ゃ、イ!ひ、ぅ、イく、イっちゃ、ま、ッて、ン、ふゃ、ぁ、あ」


挿れる前から十二分に弄ばれていた彼女の身体は、それだけで容易く絶頂を迎えた。小さく痙攣しながら、俺の背に縋って爪を立てる。可愛がっている猫に甘噛でもされている感覚に似て、酷く気分が良い。


食らいついていた首筋を解放する。そこに散る吸い痕が、刻まれた歯型が随分と赤々しく色濃く並んでいた。


「ッぅ、ふ、まあだ、へばんなよ、大将」


涙と恍惚で蕩けた眼差しがこちらに呆然と向いているのを知って、そう囁いた。一度や二度、絶頂を迎えたくらいで休ませる優しさなんざある訳もない。


「っやぁ、だめ、になっちゃ、ぅ、も…っ、やげんく、ゃ、こわ、い、ッひ、」

「怖いことなんざ、なあんもねえよ。頭空っぽに、して、俺のことだけッ、考えてりゃ良い」


気をやった余韻が残りひくつく蜜壺にぐちゅ、と突き込む最中に、出来るだろう?そう言い含める。真っ当な思考など残っていない様子で、とろとろ頷く素振りを見せた大将の頭を掌で撫ぜた。


「良い子だ、ッ」


子種を求めるが如くきゅう、と締め付ける肉壁の具合に眉が顰まる。堪らず言葉が熱っぽい息を伴う。陰茎の根元で、先端で快楽を求め、彼女のナカの感覚全てを味わい尽くさんとずぷ、ぐぷ、そう鳴るよう抽送を続けた。くそ、気持ちがいい。頭が変になりそうなのはこっちの方だ。


「は、ッん、きもち、やげ、ァ、あん、すき、ッ」

「嬉しい事、言ってくれるじゃあ、ねえか。じゃあ、っ、もっと極楽見せてやらんと、なァ…、!」


蕩ける肉壁を、深く穿つ度に、得も言われぬ欲が満たされる錯覚に、喉が鳴る。あんたが好きだ。あんたが抱えてる余計な物を、全て取っ払ってやりたいんだよ。好きだ。こんなに汚して、まだ足りぬほどに。


「まッ、ちが、ゃ、ひ、っんぁ、あ、」

「なに、がっ、違うって、?こんな風に、甚振られて悦んで、ハ、十分俺に似合いの、好き者だ、ろ」


ぐぷり、ぐち、ぐち、と最奥を突き上げる度に淫猥な音が部屋に響く。堪らず歯が鳴る。牙が覚えたての熱を欲しがって、恋しいと。あんたでなければ首輪を付けれん癖して、飼い主を貪らなければ耐えられないくらいあんたに夢中なこの身体を、今愛撫する全てがただただ愛しい。


「ちがう、ぁ、ッあ、ゃ、やげん、く、が…っ、すき、なの」


ずん、と腰が子種で膨らんだ魔羅を伴って、重くなる。延々茹って限界も近い体に、其の言葉は毒だった。腹の底で溜まっていた劣情や焦燥を蕩かして、最早言葉そのものが快楽に等しい。甘ったるい喘ぎ声の合間を付いた告白に、未だ愛の言葉が慣れぬ身が、背が、ぞくりと震える。


「大将、ッ俺も、あんたが好きだ。知ってんだろ。ふ、好きなんだよ、」


そんで、知らんだろう。この"好き"に含まれる感情が、如何様なものか。幸福と、苛立ちから蜜壺を抉る動きが荒くなった。最奥に叩きつけるように穿って、きゅう、きゅう、と収縮するナカでこれ以上無いくらいに思考が焼かれている。


「ふッ、や、も、また、イ、っちゃ、も、へんになる、全部、いっぱいにされて、も、すご、ぁ、すき、すき、イく、イくッ」

「は、っは、く、ぅ、ぁ、ッ、うく、…っ!」


肉壁の子種を強請る動きが増す。ぶるりと身震いをしながら、彼女の奥深くへと吐精した。熱い精液をとぷり、なみなみ注ぎ込んで、出しきらぬ分もゆるく腰を揺すりながら、残さず最奥へ飲み干させる。その程度の動きで疼くのか、ひくと体を跳ねさせる白い体。長い長い一瞬を味わって、そこから身を離す。互いに獣じみた息遣いのまま暫く夜闇に無言だった。深く呼吸を繰り返しそれに釣られて肩が揺らめくまま、汗と涙に濡れくしゃくしゃと乱れ張り付く大将の前髪をまた払って忍ぶ夜風に晒してやる。起き抜けみたいに惚けた顔がそれにやんわり微笑んで、堪らなく可愛かった。


俺の飢えはなくならんのだろう。あんたを好きな限り。際限なくまた増えて積み重なる。あんたの優しさと甘さに付け込んで、本当に際限もなく。そんな己が、人臭くて敵わなかった。そうだ。既に何処へも行けないのは、俺の方なんだよ、大将。あんたにやられちまって、あんたが主でなけりゃただの鈍なんだ。とうに。だから、


「やっぱり、そっちが堕ちてくるしかないらしい」


堕ちて、際限のない恋と欲を飲み下し、その毒にやられて焼かれて身悶えて、共にそんな地獄に、行くしかあるまい。