物語のはじまり

刺すような日差しが大海原に照りつけるある日の昼下がり。
吹く風は穏やかで、戯れ合うカモメの群れが青一色の世界に彩りをもたらす。


そこに浮かぶ一隻の船。
船の名前はフリーウィング号。
アイボリーを貴重とした大型の船は、レトロ調の濃いブラウンの窓枠や扉で統一されている。

その気になれば100人は乗れそうな大型船。
しかしこの船の乗組員はたった一人。


その乗組員はといえば、船尾側のサンルームで読書の真っ最中。
生い茂るグリーンがガラス越しに降り注ぐ日差しを緩和してくれるここは、彼女のお気に入りの場所。
リクライニング式のソファーに横たわり、サイドテーブルにはお気に入りのアールグレイのアイスティーと、ビタミン豊富なシーベリーのドライフルーツ。


優雅に過ごすこの船の主。
お気付きのこととは思うが、少々変わり者だったりする。


腰まである色素の薄い長い髪。
お気に入りの場所がサンルームの割に、その肌は透き通るように白い。
実際まだ少女と称される年頃。
しかしそれを上回る程彼女を年若く見せてしまうのが、この垂れ目がちの大きな瞳。


「…へえ。なるほど、それは興味深い」


大事な事なのでもう一度言おう。
このフリーウィング号の乗組員は彼女だけ。
その彼女が話す言葉は必然的に全て一人言。

盛大な一人言を発したこの少女はサイドテーブルのメモにさらさらと文字を書き殴る。
その顔はイタズラでも思い付いた子供のそれそのもの。


「にほんしゅ、米、酵母っと。──んー…次の島はあと3日くらい?かな。良さげなお米、あると良いなー」


ソファーから立ち上がり左右の腕を交互に引っ張り体をほぐすと、少女はサンルームからデッキへ続く扉をあけ放った。


吹き込む潮風に踊る細く柔らかい髪は、彼女の心境を代弁するかのように
楽しげにそよいでいた。



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