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「ストーカー?」自分とは縁のない単語に聞き返す。ニュースや漫画や小説の知識程度の私にとって、クラスメイトからでたその単語に全くと言っていいほど現実味を感じない。
「私じゃないよ」
「うん。何でストーカーとして疑ってるって思ってしまったのか謎だけど、普通に直緒だとは思ってないから。それにストーカーされてるのは私じゃないし……」
ならば何故ストーカーの話題が出たのだろうか。私が不思議そうに見ていることに気付いたのだろう。クラスメイトは手に持っていた箸を置いて話し出した。
「えっと、先輩の友達の親戚の友達のお兄さんの……」
「もはや他人」
「私もそう思う。まあ兎に角その人がめちゃくちゃイケメンで、ファンクラブがあって」
「漫画かよ」
「そう思うでしょ?でも本当にイケメンなんだって。雑誌に載ってる」
クラスメイトは机から雑誌を取り出し、付箋を付けてあるページを開いてこっちに寄越してきた。準備の良さに感心しながら受け取る。
「ね、イケメンでしょ?」
確かにイケメンである。
スポーツ雑誌に取り上げられているところをみるとその界隈では相当有名な人みたいだ。
ふーん、と流し読みをしていたら、今まで黙って話を聞いていた青江が雑誌を覗き込んできた。
「おや、随分と美丈夫だねぇ」
青江と雑誌のイケメンを交互に見る。
私は思わずそっと目を瞑った。
「だめだ。知り合いのお兄さんを見慣れすぎて目が肥えてる……」
「そんなこと相当のイケメンを見慣れてなきゃ言えないよ?」
そんなにすごいイケメンと知り合いなの?とクラスメイト。今貴女の目の前で一緒に雑誌を眺めてますよ、とは言えない。
青江をまじまじと見ながら言葉が漏れる。
「ベクトルは違うんだけど、とても美人なお兄さんなんだよ……」
「ふふ、随分と褒めてくれるねぇ?」
青江が微笑む。
さらりと肩を滑り落ちる髪の毛に思わず目が行き、咄嗟に視線を逸らす。
危なかった。そのまま見ていたら確実に惹き込まれていた。
「そ、それでストーカー云々は?」
「ごめん。めっちゃ雑誌読んでた」
そうだった、とクラスメイトが改めて話を続ける。
「毎日電話が来るらしいよ」
「それは嫌がらせなのでは?」
「『愛してる』とか『私には貴方だけ』とか恐ろしい声で繰り返すんだって」
「電話番号を変えたり着信拒否にしたりは?」
「効果ないって。向こうも電話番号を変えてくるのか、毎日一回必ず電話が来るらしいし」
「ふーん……警察案件じゃない?」
「うん。もう逆探知とかはしたって。だけど犯人はわかってないし、捕まってないみたい」
こわいよねー、とクラスメイトは食べるのを再開した。
「いやに詳しいね」と言ったら「むしろ知らない方がおかしい」と言われてしまった。
そんなに有名な人だったのか……
学校が違うから知らないのが当然だと思っていただけに世間知らずを晒してしまった。
「だから今は結構そこらで噂なんだよ。捕まらないストーカーの話」
「実は幽霊からのお誘いとか。ほら、メリーさんとか……」
「今時古典的なホラーは流行らないってこの間直緒自身が言ってたじゃん」
「とか言いつつ『キューピッドさん』をやろうって言ったのはどなたでしたっけ?」
「うっ……」
『キューピッドさん』にしろ『キラキラさん』にしろ、名前が違うだけで全部『こっくりさん』という呪術だ。
結局あれは私達、主に『にっかり青江』があの場で勝手に動かしたお遊びに変わったから何も起こらなかっただけで、実際に成功したらどうなっていたのか……
人を呪わば穴二つ
例え呪うことが目的でなくても呪術は呪術。ただでは済まなかっただろう。
「で、このイケメンが近所の市民コートに来るんだって!行ってみようよ!!」
「まさかとは思うけど、ストーカーの話全然関係なかったんじゃ……」
えへへ、と笑うクラスメイトに思わずため息をついた。