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キャーキャーという女子特有の黄色い悲鳴が響き渡る中、何故私はここに居るのかと滴る汗をタオルで拭きながら思う。「か、かえりたーい……」
「でも帰ったら怒られるんじゃないのかい?」
「それでもかえりたーい……」
かえりたーいと呟く私の声は黄色い悲鳴で掻き消える。
夏に入ろうとしている季節の日差しはきつく、立っているだけで汗が流れて行くのに黄色い悲鳴は衰えない。
すごい忍耐力だ。
「青江さんはなんでこんなにクソ暑い中汗一つかいてないの?あ。青江さんは実体がないからか。そうかそうか……」
「そうだねぇ……僕の場合は本体が涼しいところにあるからかもしれないね」
なるほどなー、とおざなりの返事をしながら周囲を眺める。
私が座っているベンチは木の下にあるから影になっていてまだ涼しい方ではあるが、やはりじめじめとした気候故に汗が滲むし暑い。
持参した扇子をパタパタと仰ぐと、何故か一緒に風に当たろうとする青江が引っ付いてくる。
「青江さんが風に当たる必要性を感じません」
「僕にも風に当たる権利はあると思わないかい?」
「思いません」
ふふ、残念……と青江は全く残念そうなそぶりも見せずに離れた。
風に当たるとサラサラと靡く髪の毛が目に毒だから安易な行動は控えてほしい。
「それにしても、今日はいったいどういう競技の大会なんだい?女子が多いようだけど……」
「雑誌を読んでたのでは?」
「うん。てにす?という競技らしいね」
そんなに人気の競技なのかい?と不思議そうに聞いてくる青江に溜息が漏れる。
これはテニスが人気なのではない。テニスをするイケメンが人気で、大半の女子はそのイケメンを見るためだけに来ているだけなのだ……
「世の中には知らない方が良いこともあります……」
きっと隣に座っている青江も他人に見えていれば数多くの女子に囲まれていただろう。
この場に関して言えば見えているのが私だけで良かったと思う。本当は私も見えない方が良かったけれども、人間というのは他人と少しでも違うことが嬉しかったりする生き物である。
今の私は心霊的なものが見えるようになって良かったような悪かったような、複雑な心境なのだ。
「何一人でぶつぶつ言ってんだ?」
ドキリとして思わず身体が跳ねる。
まさか人が近くに居るとは思わず、不覚にも普通に青江と会話をしていた。
まさか聴かれていたのだろうかと声の方向を恐る恐る見上げると、逆光でよく見えないがテニスウェアを着た青年が立っていた。選手なのだろうか……
「お恥ずかしいところを……早く帰りたいなぁと言ってただけなんです」
「クラスメイトの付き添いで」と、続けて言えば相手は納得したようだ。
そして隣に座った選手の青年。
当前だが、青江が見えていないせいで青江の右半身がすり抜け、青年に被ってしまっている。
途端に青江が可哀想に思えて、少し左側に詰めて目配せすると青江は首を横に振って立ち上がった。
「試合じゃないんですか?」
「俺?今さっき終わったとこ」
「そうなんですか。お疲れ様です」
それだけ言って会話は途切れる。
何故この青年は私の隣に座ったのか。謎が謎を呼ぶミステリーである。
「代理。あのことを聞いてみたらどうだい?」
青江に言われた『あのこと』が何を指すのか一瞬わからなかったが、クラスメイトが言っていたことだろうと気付く。
「あの、どこのテニス部の話かは知らないんですけど……ストーカーされてるって話を聞いたことはありますか?」
青年は奇妙なものでも見るように見てきた。
「どこのテニス部って本気で言ってんのか?」
「スポーツにはあまり詳しくないもので」
「とりあえず雑誌に載ってたイケメンだったことくらいしか記憶にない」と言うと青年はため息をついて、「知らないやつとか世の中に居るんだな……」と呟いた。
「それ、俺たちの部長だよ」