5
最初に居たベンチに座る。目の前に立ったままの少女……付喪神は視線をあちこち動かして不安そうにしている。
付喪神でも不安になることがあるのか、となんとなく観察していると、「代理」と青江に促された。
「付喪神さんでよかったんですよね?」
「は、はい……」
「マネージャーかと思いました」
それくらい馴染んでいました、と言うと緊張が解けたのか少しだけ嬉しそうに笑った。
悪い子ではなさそうだ。
「持ち主の人に何かしている自覚はありますか?」
「えっと……わたし、どうしても感謝の気持ちを伝えたくて……電話を通してなら聴いてくれるかもと、思って……」
思わず青江を見る。
青江は両手の平を上に向けて肩をすくめてみせた。
嘘はついていないようだ。
「結構大事になっているみたいですよ」
「あ、そ、そうですよね……」
しゅんとする付喪神。なんだかかわいそうに思えてきた。
悪気があったわけではなく、ただただ感謝していることを伝えたかった付喪神。
『愛してる』、『私にはあなただけ』という言葉はその言葉の通りのことなのだ。
付喪神の声はとても可愛らしい声だが、きっと電話を通してしまったが故に不穏な空気を孕むものに変わってしまったのだろう。
「とりあえず、電話はやめましょうか。逆効果みたいですし」
「はい……」
「貴女が感謝を伝えることができなくても、持ち主の方が貴女を大切にしていると思いますよ。そうじゃないと貴女が付喪神になれないんじゃないですか?」
『付喪神』
道具は百年という長い年月を経ると、魂が宿り人を惑わすと言われている。
『九十九神』とも表記され、それは「長い時間(九十九年)や経験」、「多種多様な万物(九十九種類)」などを象徴する意味合いがあるらしい。
そういう意味はあれど、持ち主に大切にされている彼女は年月など関係なく、魂が宿ったのではないだろうか。
持ち主に大切にされていることに気付いたのだろう。付喪神は嬉しそうにしていた。
「一件落着だねぇ」
「そうですねぇ」
試合が終わったのだろう。遠くで拍手と歓声が聴こえる。
「青江さん。今日は寄り道して帰りましょうか」
「何処に行くんだい?」
「久しぶりに博物館で青江さんを眺めて帰りましょう」
「ふぅん?代理は僕を眺めてナニをする気かな?」
「青江さんじゃなくて刀の方ですよ」
「僕の刀を眺めるのかい?」
それなら今すぐに見せてあげるよ?と言う青江。ズボンに手をかけるんじゃない。
「……やっぱり帰りましょう」
「残念」
全く残念がってない青江。むしろ楽しそうにしか見えない。
「私、青江さんのそういうところ苦手です」
「僕は代理のそういうところ好きだよ」
青江は常に私の側に居る。刀は博物館にあるのにだ。
初めて会った時から変わったように見えない青江。
直接本人に聞けば分かることだと思うが、それでも本人には怖くて聞けない自分がいる。
青江の居ない本体の刀は今頃どうなっているのだろうか……