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あれはいつの事だったのか忘れてしまったけれど、私には歳の離れた兄が居た。『おにいちゃん。おやつはんぶんあげる』
『うん。ありがとう。でも全部お食べ』
これは直緒がお母さんから貰った分だからね、と優しく笑う兄が好きだった。
いつも一緒に遊んでくれたし、いろんなことを教えてくれた。へたくそな絵を描けば褒めてくれたし、へたくそな字だって褒めてくれた。絵本も読み聞かせてくれた。
私は何でも褒めてくれる兄が好きだった。
いつも一緒に遊んでたと思う。
でも、いつからか兄は居なくなった。
それを不思議に思いながらも私は何も言わなかった。
いつしか兄が居ないことが当たり前になった頃、私は気付いてしまった。
兄の名前も、兄の顔も、どんな格好だったかも、全部覚えていないことに……
ただ私が覚えているのは兄と遊んだこと、何かを話して笑った、とかそういう曖昧なこと。
始めから私に兄は居なかった