三度目はない

パラパラと雨が降り出した。
空は晴れているのにだ。

「おや?雨が降り出したねぇ」
「狐の嫁入りと言うんですよね」
「知っているのかい?」
「教えてもらったことがあります」

曰く、『天気なのに雨が降るなんて、まるで狐に化かされているようである』とのことから「狐の嫁入り」と呼ばれるようになったとか。
青江にそう聞いたのだと言うと、「それはどうかな?」とにやりと笑った。

「もしかしたら本当に狐が祝言を挙げているのかもしれないよ」
「そう言われましても、実際見てみないことにはなんとも言えないですけどね」
「そうだねぇ」

普段の雨と違いサァサァと静かに降る雨はまるでこの世のものではないかのような感覚に囚われる。

「この程度であればたまには狐に化かされても良いかもしれませんね」
「代理がそんなことを言うなんて、珍しいこともあるねぇ」
「たまには、ですよ」

毎回毎回何かしら起こるのはこりごりです。と言うと青江がふふっと笑った。

「でも結局君は惹きつけてしまうねぇ」
「はい?」

青江が指さす方向。そこにはゆらゆらと揺らめく光の行列が段々と近づいてきていた。
思わず真顔になると青江はクスクスと笑った。

「狐の……嫁入り……」
「とりあえず端に寄ろうか」

青江に言われて道の端に寄って少し顔を伏せる。あまりじろじろと見られるのも嫌だろうと思ったからだ。
端に寄ってどのくらい経ったのだろうか。段々と距離が近くなってきたのか、複数の足音や涼やかな鈴の音色が聴こえてきた。雨はまだ止まない。

ふと音が止んだ。
過ぎ去ったのだろうかと思っていると不意に白い手に顎を持ち上げられ、真っ白の狐の面と対面した。
思わぬ事態に驚いていると、狐面の女性が少し首を傾げ私の頭にそっと手を置く。
白無垢を着ていることからきっと彼女が花嫁なのだろう。

「お、おめでとうございます……」

狐の花嫁は再び首を少し傾げて私の頭から手を離し、行列に戻り、歩き出した。
涼やかな鈴の音色はどんどん遠ざかっていく。
いつの間にか雨は止んでいた。

「化かされたねぇ」
「……化かされましたねぇ」

呆然と突っ立っていると青江が「何を貰ったんだい?」と私に聞いてきた。
何も貰った覚えはないのに何を言っているのだろうかと思ったが、いつの間にか何かを握っている事に気づいた。
おっかなびっくりしながらも手を広げてみる。

「良い物を貰ったね」
「はい」

それは綺麗な石だった。
何の石か気になってスマホで調べる。その結果……

「まさか翡翠なのでは……!?」
「本当に翡翠なのかい?」

青江にスマホと石を見せる。
確かに似てるね、という青江にやっぱりこれは翡翠ではないのかと言うと青江は首を横に振った。

「代理、残念だけどそれは翡翠じゃないよ」
「え?」

青江はスマホを少し操作すると私に寄越してきた。
渡されたスマホと石をまじまじと見る。

「これはまた……」
「ふふ、狐に化かされたねぇ」

笑う青江。
スマホの画面に表示されているのは『キツネ石』
これには私も思わず笑ってしまった。

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