6
神様からの罰を執行するべく夜遅くに連れてこられたのは学校から家までの通学路。道のど真ん中に私と青江は立つ。
「今から君は誘き出すための餌だよ」
「餌ですか」
「そう。餌」
悪いようにはしないと言う青江。
まだ不安は残るが青江が嘘を言っているようには思えない。きっと大丈夫だろう。
「本当に来ますかね……?」
「必ず来るよ」
「何故そう言いきれるんですか?」
私の疑問に青江は何も答えなかった。
私と青江は静かに待つ。真夜中の住宅街には私と青江だけが起きていた。
「来た」
青江が言うが、私にはまだ何も視えていない。
「代理、少し歩こうか」
「どこにですか?」
「とりあえず真っ直ぐ」
青江に言われたとおりに歩きはじめる。
それと同時に私と青江の足音の他にも足音が聞こえた。
ゆっくりと歩き続ける。
「どうするんですか?」
「代理。ストップ」
私が歩みを止めると後ろの何かも足を止めた。
「声を出してはいけないよ」
「……はい」
「振り返って」
ぎゅっと目を瞑って恐る恐る振り返る。
そろそろと目を開け、思わず鼻と口を手の平で塞ぐ。
「ぐっ……」
「ダメだよ代理。我慢するんだ」
目の前に居るのはドロドロとした黒塊。
パッと見何か獣の様な形を成しているが、普通の獣では考えられないような大きさ。そしてそれ以上に喉の奥からせり上がってきそうになるほどの腐臭。
振り返って初めて感じる臭いに涙が出そうになる。
「あ、青江さ……」
「アレは元は動物だったはずだよ。でも、もう悪霊になってしまっている……。さあ代理、手伝ってもらうよ」
そう言って青江が私の後ろに回ると背筋をゾワリと逆撫でするような感覚がした。
心なしか体が軽くなったような気がして不思議に思っていると肩に何かがかけられた。白い布だ。
自分の身に何が起きているのかわからない。
視界から消えた青江にどこにいるのだと尋ねようと思ったら、
「手っ取り早く始末してしまおう」
喋ってもいないのに口が勝手に動いた。
「は?なんで?」
"私"が右手を腰の左側に添えるように当てるとゆらりと炎が揺らめくように空間が歪み刀が現れた。
すらりと抜いた刀の刀身は月の光に反射して青白く輝いている。
「え?え?何……?」
「代理。少し静かにしようか」
"私"の口から出たのは代理。
ということは……
「青江さん!?」
「少し静かにしないと、まるで不審者だよ。気付いてないのかい?全部口から漏れてるのが」
どうやら漫画でよくあるパターン、『憑依されたら勝手に喋ってるし勝手に動いてるのに誰も私じゃないと気付かない』というやつではなく、『憑依されたら勝手に喋ってるし勝手に動くけど自分も普通に喋れる』という少々厄介なパターンらしい。
「うわー……うわー……」
「いい具合に憑依出来てるから元々体の相性がいいのかもしれないねぇ」
「その言い方やめて」
ふふ、と笑う自分の体に微妙な気持ちになる。
笑っているのは青江でも、実際に笑っているのは私だ。
「さて。お喋りはここまでにして、本題に入ろうか代理」
刀を構える私、もとい青江。
もうどうにでもなれと青江に全てを任せることにした。
「さあ、斬ったり張ったりしようか」