「『キューピッドさん』って知ってる?」
「は?」

急に言われたことに変な声を上げるとクスクスと後ろから笑う声が聞こえた。
思わずしかめ面になり頭の横辺りを手ではらうように振る。「どうしたの?」と前の席のクラスメイトに心配され「虫がいた」と咄嗟に嘘をついた。
自然としてしまった行動に気を付けようと思ったのに再びクスクスと笑う後ろの存在。今度はクラスメイトに見えないように手を机の下におろしてはらう仕草を見せたが笑い声は止まらない。
もういいや、と放っておくことにした。

「聞いてた?」
「え!?あ、ごめん!もう一回言ってもらっていい?虫が気になってあんまり聞いてなかった」

素直に謝ると、クラスメイトはもう一度最初から話してくれた。

「『キューピッドさん』っていうおまじないがあるんだって。質問するとなんでも答えてくれるらしくて、今流行ってるんだよね」
「『こっくりさん』ではなく?」
「うん。『キューピッドさん』らしいよ。やり方は『こっくりさん』と一緒らしいけど」

クラスメイトは「どう違うんだろうね?」と首を傾げていた。どうやらクラスメイトも詳しいことは知らないらしい。

『こっくりさん』
「五十音のひらがな」、「はい」、「いいえ」、「性別」、「鳥居」を紙に記入し、その上に十円玉を置いて参加者全員が指を添えて質問をすると、十円玉が勝手に動いて質問に答えてくれるというおまじないだ。狐の霊を呼び出す降霊術とかなんとか言われているが、実際にしたことがないから本当かどうかはわからない。
でも何故か何年かに一度、定期的に流行る時がある。
名前もいくつかあるらしいし、紙と十円玉でできるお手軽感。子供が大好きそうな話だ。

「それで突然どうしたの?」

私が聞くと、クラスメイトは一度表情を引き締めて口を開いた。

「私がやったわけではないんだけど、部活の友達の妹がやってたみたいで……」
「へー。それで?」

なんだ、クラスメイトがやってたんじゃないのか。となんとなく思いながらも続きを促すと、クラスメイトの顔色は段々と悪くなっていった。


「その話を聞いてから部活の友達が来てないの」


「体調不良ってことらしいんだけど……」と心配するクラスメイト。なんとなく飲み終わったパックジュースのストローを口に咥える。

「なら体調不良じゃないの?」
「でも、このタイミングでこんなことってある?」
「あるんじゃない?偶然悪いことが重なってるだけだよ」

「偶然だよ偶然」とクラスメイトに言い聞かせるように繰り返す。
クラスメイトも段々偶然なのだと信じ始めたようで、「そうだよね……」と安心したようにほっと息を吐いた。

「今時『こっくりさん』とか古典的なホラーは流行らないよ」
「『キューピッドさん』だけどね。」
「時代はスマホとかパソコンとかみたいだよ。去年か一昨年かだけど、夏恒例のホラー番組の宣伝でインターネットに閉じ込められた人みたいな質の悪いの流行ってたし。幽霊も時代の最先端にいきたいんだよ。ハイテクになりたいんだよ」

「だから今時紙じゃなくてタブレットでするんじゃないの?」と言うとクラスメイトが吹きだした。
クラスメイトは笑いながらお昼ご飯を食べるのを再開した。
既に食べ終わった私はストローをガジガジ噛みながらずるずると椅子から体を下にずらしていく。はたから見るときっとだらしがないと怒られるだろう姿勢になり、ストローを咥えたまま頭上に視線を向けた。


笑い声はいつの間にか止まっていた。




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