「キューピッドさんキューピッドさんおこしください」

紙を目の前に十円玉に人差し指を添えている今現在。みんなが真剣な眼差しで机の上を見ている中、私はげんなりとした顔をしていた。
そんな私の様子を楽しそうに見ていた横に立っている存在は、おもむろに十円玉に手を伸ばした。

『はい』

私以外のみんなが驚く。
十円玉を動かしたヤツを睨みつけるが彼はにこにこと微笑むだけ。思わずため息をつくと何を思ったのか、彼は更に十円玉を動かし始めた。

『しつもんは』

普通は催促しねーよ、と思わず呟く。隣に立つ存在は変わらず微笑んでいるだけ。
催促されたからには応えなければと思ったのだろう、十円玉に指を添えてる子の内の一人が緊張しながらも口を開いた。

「あ、明日の天気は……?傘は必要?」

思わず頭を抱えた。
普通そこは好きな人の好きな人とか何か他にあるだろう……
天気くらい帰ったらいくらでも確認できるし何なら今すぐにスマホで調べてもいい。
それなのに何故か私以外のみんなは真剣に十円玉を見つめていて、私がおかしいのだろうか……
だんだんと分からなくなってきた。

『はれときどきくもり こうすいかくりつ10ぱーせんと かさはいらない』

そして動く十円玉。動かしたヤツは親指をグッと立てながら私に微笑みを向けてきて思わず空笑いが漏れる。
そうだね。朝一緒に天気予報を見たもんね。

そんな私を差し置いてみんなは盛り上がる。
「すごい!当たってる!」と天気予報を聞いた子。なんだ、試しただけだったのかと思わずため息をつく。

「間宮さんの好きな人は?」
「は?」

ワクワクとみんなが十円玉を注視する。

「え?いやちょっと待って!!何で!?」「だって気になるから」

「ねー」と頷き合う私以外のみんな。全く話にならない。
余計な事はするなよと隣に居るヤツを睨みつけると「うんうん」と頷いて十円玉を動かし始めた。

『いいいいおおおおおおろろろろん』

先ほどとは違い、勢いよく動いたかと思うと『い』の位置でガタガタ震えながら『お』と『ろ』を経由して『ん』で止まった十円玉。
誰かが「ヒッ!」と短く悲鳴を上げた。

「ねぇ……これ、大丈夫なの?」
「間宮ちゃんに何かあったりしないよね……?」
「え、え、直緒ちゃんなんかごめん!!」
「大丈夫大丈夫。多分私が力入れすぎちゃったんだよ」

「だってみんなに知られるの照れくさいし……」と言うとみんなは安心したようだ。

ため息をついて隣に居るヤツを見る。
咄嗟に太ももに親指を突き立て爪を食い込ませたのは正解だったらしく、痛みで十円玉をうまく動かせなかった彼は涙目で太ももを押さえビクビク体を震わせて悶えている。
最後にぎゅっと太ももを抓り手を離すと、こちらを見てへらりと笑った。

『ごめんね』

と彼の口が動く。いったい誰の名前を応えようとしたのか後で聞こうと思った。


「そろそろ辞めない?本屋に行かなきゃだったの忘れてた」


私の言葉にみんなは教室の時計を見上げる。

「そうだね。解散しようか」
「キューピッドさんって当るんだね」
「またしてみようか」

おっとこれは非常にまずい流れだ。
どうやら隣に居るヤツが動かしたせいで信ぴょう性が増したらしい。
彼を睨みつけると少し考えてから頷き、十円玉に手を乗せ、


『かえらせない』


そう動かした。

Back