4
「え?」
声を上げたのは誰だったか、一気に空気がピリピリと張り詰める。
クラスメイト達はみんな怯えたように十円玉を見つめる。
私は隣に立つヤツにこっそりと親指を立て、彼はそれに微笑み、更に十円玉を動かした。
『かえらせない』
もう一度同じ言葉に動かした彼。
クラスメイトの中には泣きそうになっている子もいる。それでも私は何も言わない。
まさかの出来事に誰も声を出すことが出来ないみたいだが、恐怖で十円玉が微かに震えているのがわかる。
「手は放しちゃだめだよ」
私の声が静かな教室内に響いた。
みんなの視線が私に集まる。もう一度、「手は放しちゃだめだよ」と念を押すように言った。
ルールに『途中で手を放してはならない』とあったのに思わず手を放しそうになった子が居たからだ。
「どうしたらかえってくれますか?」
『かえらせない』
同じ言葉に動く十円玉。
ならばと言葉を変える。
「何がお望みですか?」
『のろう』
また誰かが小さく悲鳴を上げた。何も言っていないのに十円玉は『のろう』という言葉を繰り返し示す。
やり過ぎでは?と思い隣に立つ存在に視線をやると、「これぐらいやらないと」とでも言うかのように親指を立てた。
思わずため息をついたが、恐怖に支配されたクラスメイト達は誰も気づいてはいなかった。
「誰を呪うのですか?」
『きみをのろう』
ここでの『きみ』は質問者、私のことだろう。
『キューピッドさん』の返答にクラスメイト達の顔色は更に真っ青になる。
まさか発案者の自分たちではなく、巻き込んだ私が指定されるとは思ってなかったのだろう。
しかし、呼び出した『キューピッドさん』は私を呪わないとかえってくれない。
少しだけ面白い流れになってきたことに口角が思わず上がる。
「どうぞ」
クラスメイト達は目を見開き私を見る。
私はそのまま言葉を続けた。
「私を呪えばみんなを解放してくれるのでしょう?どうぞ、私を呪ってください」
『はい』
そして十円玉は鳥居の位置に動いて止まった。さっきまで激しく動いていたのに今ではうんともすんとも言わない十円玉。
一連の流れに思考がまだ追い付いていないのか、クラスメイト達は誰も動かない。
「ありがとうございました」
私がそう言い礼をすると、クラスメイトは慌てて「ありがとうございました」と口々に言い、礼をした。
手を放す私につられるよう恐る恐る手を放したクラスメイト達。
十円玉は静かにその場に留まっていた。
一つの指を残して。
「帰ろうか」
そう私が言うとビクリと体を揺らしたクラスメイト達。
まだ恐怖から抜け出せていないようだ。
「大丈夫。私は元から呪われているから」
「きっと元々の呪いと今回の呪いで相殺されて何も起こらないよ」とニコリと笑う。
私の様子に安心したクラスメイト達は「直緒は運が悪いもんね」と少しずつだが笑顔を取り戻し始めていた。
「でも安易にこういうことしない方がいいかもしれないね」
私の言葉にさっきまでの出来事を思い出したクラスメイト達は首を上下に振って頷き、今日のことは忘れようとお互いに励ましあっていた。
「直緒……」
「だから偶然なんだよ。部活の友達のことは気にせず学校に来るのを待とう。体調不良なんてこの時期よくあることだよ」
「うん……そうだね……!気にし過ぎだよね!」
前の席のクラスメイトは今度こそしっかりと頷いた。
十円玉を動かしていた存在は私の背後でクスクスと笑っていた。