サポートメンバーである稔の日常は何か特別なことが起きることもなく、だからと言って暇でもなく、本人にとっては「ちょうどいい忙しさ」といった具合である。
ビートラップという事務所に所属して数年。「そういえば……」と彼が顔馴染みを見ないことに疑問に思った時には既に事務所を抜けていたなんてことはざらで、社長が社長故に仕方がないと思いつつも所属し続けている稔は事務所内でも古株という称号に片足をつっこんでいる状態であることに微妙な気持ちになったりしていた。
だからと言って事務所を抜けることもせず、社長やどこかのバンドのマネージャーから話が来れば了承、それ以外は自らの練習に充てたりとのんびりと同じ日常を繰り返していた。
そんな日常が変わったのは数日前。社長が突然彼の前に現れ、機嫌よさげに話しかけてきた時だった。
「稔。お前、これからバンドを組む予定はあったか?」
「特にないです」
「どこかのバンドのメンバーになる気はあるか?」
「いやー、俺は別に今のままで十分ですけど……?」
そうか……とこれまた機嫌よく去って行った蜂谷に疑問に思いつつもすぐにそのことを忘れ去った稔。
しかしその翌日に再び機嫌の良い蜂谷に呼び出された稔はもしや解雇でも言い渡されるのではないかと内心ビクビク、表面上はいつものように何でもない風を装っていた。
「お前はこれからこの二人のサポートをメインに活動しろ。それ以外は今まで通りでいい」
そう言う社長の横に立つ瓜二つの二人。なるほど双子か、と稔は思い自己紹介をした。
しかし稔の目の前に居る双子は稔に対してあまり良い印象を受けなかったのか、それともただ単にサポートメンバーという存在が気に入らなかったのか、片やしかめっ面で睨むように、片や柔和な笑みを浮かべこそすれど見下しているかのような態度で黙ったままであった。
「話は以上だ。仲良く……は無理でもできるだけ行動は供にするように。今度ライブがあるからな」
「はあ……」
気の抜けた返事をした稔を一瞥した後、社長は通り過ぎ様に彼の肩に手を乗せ「期待している」と言って出て行った。要するに教育係みたいなものかと受け取った稔はこれからどうしたものかと双子を見る。
視線に気付いた双子はやはり気に入らないと言いたげに稔を見ていて、稔は稔で厄介な仕事を押し付けられたものだと頭を抱えていた。
突然だが稔は一人っ子である。それ故に兄弟という感覚は彼にとっては理解しがたく、しかも相手は双子である。稔はどうしたものかと考えた末、二人には二人の世界があり、他人に余計な口を挟んでほしくないのだろうと判断した。
その結果……
「俺、君らの事全然興味ないから」
顔合わせ初日から喧嘩になったのは言うまでもない。
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