あれは自分が国から『特務司書』という大役を仰せつかった時だ。
本来であればアルケミストの中でも研究者として国に従事するつもりであったのだが、国からの任であるのであれば逆らうことなどできない。普通であれば特務司書として任を任されるということは大義名分である。普通であればの話だが……。

自分はそれほど特別な存在ではないと気付いたのは自分がアルケミストになってからだ。特別な力を持つ者がアルケミストとなれるのだと知った時、自分は特別なのだと思うようになった。しかし蓋を開けてみればなんてことはない。自分のようなアルケミストは数え切れぬほどいたのだ。浅はかな考えにやはり自分は凡人なのだと自ら思い知らされた。
ならばアルケミストの中でも狭き門と言われる特務司書となれば良い、とは簡単には思い至らなかった。凡人である自分が特務司書になれるはずがないと自ら弁えたのだ。諦めた、と言う方が適切だろう。

だから研究職を目指したのは妥協だからでもなく、自分の持つ力で役に立てるのであればと思った。せっかくアルケミストとなれたのだ。それを使わずしてどうするのだと……。と、聞かれたら答えてきたが、実は研究することが好きだからだ。勘違いされてやたらと「無理しなくても気持ちはわかるよ」などと言われるのはうんざりである。

しかし、何がどうしてそうなってしまったのか、自分は特務司書に任命されてしまった。自分にとっては今更だとしか思わないが、それと同時に忘れていたはずの欲が出てきてしまった。
自分は誰よりも、何よりも特別になりたかったのだ。