肆
文豪が言っていた「他のものとは違う変人となりたい」という言葉を自分が間違えた解釈をしていたのだと気付いたのは、文豪が「まるで、手前が本に見られているような感覚になるな」と図書館の本棚を前に暫く眺めている時だった。
「まるで本が生きているようなことを言いますね」と言えば、「新感覚だとは思わないか?」と返ってきた。
「利一さんは特別なものにでもなりたいのですか?」
と、長年思い続けてきた疑問を本人に投げかけてみる。横光は何を言っているのか理解できないとでも言いたげに自分を見てきた。
「何故そう思う?」
「先程変人になりたいと言っていたので……」
成程な、と横光は頷き続けた。
「特別になりたいのではなく、変人になりたいのだ。特別と言うのはその中でも一番という意味合いを持つが、変人は言葉の通り変わった人という意味だ。手前は特別ではなく、常に新しい文学……詩や絵画のような文学を目指している」
長年の疑問が解消されたと同時に、特別というものに固執していた自分が恥ずかしく思えた。
それから横光といくつか話したが、自分の事を覚えてはいないようであった。 |