UN-HAPPY SHOW!!


嘘と実


 私は嘘が上手い。自他ともに認められるほどだと思ってる。……たった一人を除いて。
「おはよう。今日最初の嘘は何かな?」
「……嘘みたいに天気がいいですねっ」
「そうなんだ。君の言う天気が良い、は雲が空を覆いつくしている天気のことを言うんだね」
 私は、噓が、上手い。さっきの嘘は雑だったけど、いつもはもっと上手い嘘をついている。狼少年になりかけたこともあるけど、やっぱり嘘をつくのは楽しい。さすがに他人を手玉に取ろうとかは思ったことない。事実を誇張した嘘だったり、事実とは反対のことを言ってみたり……事実を混ぜてるから問題ないよね。関係のない人に迷惑をかけない噓だもん。嘘を信じた人だけが赤っ恥かくだけだし。
 だというのに、目の前で”名は体を表す”と言う言葉の具現なんじゃないかってくらいの笑顔で微笑んでいる王子は騙されない。コイツの情報網が知りたい。リアルタイムのことについての嘘なのにすぐ見抜く。全知全能だったり……?
「百面相をしているけれどどうしたんだい? 他に良い嘘は浮かんだかな」
「嘘以外のことも考えられるわ! いつも嘘しか頭にないみたいな言い方止めてくれない?」
「知っているかい? 嘘っていうのは事実を混ぜているもののこと。でも、君の場合は嘘5割、冗談5割に近いよね」
「嘘しかついてませんー! アンタが事実を知る前に見破るだけです〜!!」
 ホントコイツ腹立つ! 小南は騙され過ぎだけど、あれくらい素直でもいいんだよ。素直な、王子……想像しただけで寒気がする。ボーダーに外れたイケメンしかいないの? っていっても、柚宇から聞いただけ。
「もう少し話していたかったんだけれど、もうチャイムが鳴る時間みたいだ。続きは休み時間にしようか」
「え、話すことあるの?」
「一時間目の授業は?」
「……え、英語ですね」
「今話していることに続きはないだろうけど、話すことならあるよね」
「それじゃあ」と、手を上げて爽やかに自分の席へいなくなる王子。ちょっと忘れてたけど、王子と話すと一部の女子の視線がダイレクトに突き刺さってくるんだよ。疲れる。
 簡単な問題出てください。それなら王子に関わらなくていいし、残り少ない平和な学校ライフが満喫できる。

「と、ずっと思っています」
「残念だったね。僕と休み時間を過ごすことになって」
「心読まないでよ」
「否定してくれてよかったのに」
「残念」と爽やかな笑顔を浮かべる王子。残念そうに見えないのに絵になるのがまた腹立つ。ストレッサー。
「でも、そんなこと言って良いのかな。勉強は誰に教えてもらうんだい?」
「……返す言葉もございません」
 私に友人がいないわけじゃない。王子と絡んでからなんとなくお話してた一部の女子からは縁切られたけども。いないわけじゃない。ただ、王子みたいにふらっと現れて話しかけてくれたり、話しやすいやつが王子だけだった。それだけ。『親しい人が友人。親しい友人が親友』と何かで読んだか、誰からか聞いたか。もう覚えてないけど、知人と友人、親友にそこまで差はない。となると、王子は友人で柚宇が親友かな。王子が親友はなんかやだ。
「考え事をしている余裕があるんだね」
「ないです。ごめんなさい。もう一度お願いします」
 早口にそう捲し立てると、王子は小さく笑った。いつか締め上げてやる。
「まだ何も教えてないよ」
 ……締める。
「でも、このペースでいくとかなり時間はかかるかな」
「それは勘弁してください」
 本当は柚宇に教えてほしかったけど柚宇の方が馬鹿なので叶わなかった。後輩に教えてもらうのは癪に障るし、私のプライドが許さない。私ってワガママ。
「今日はたくさん考え事をしているみたいだね。何か悩み事でもあるのかい?」
「私って馬鹿だな、と思って。それに勉強教えてくれる人いないし」
「馬鹿なのは否定しないけれど、」
「否定しろ」
「事実だろう?」
「ハイ、ソーデス」
「教えてくれる人がいない、っていうのは違うんじゃないかな。君は僕以外のクラスメイトとよく話しているじゃないか」
 そうフォローを入れてくる王子一彰。待て、なんで知ってるんだお主。王子がいるときは大体王子と話してるし、他のクラスメイトと話してることもあるけど、”よく”ではない。圧倒的に王子と話している時間の方が長い。いつも王子が話しかけてくるから他の人と話せないし、別にそれでもいいかなって思ってたりする。これから残りの四、五ヶ月で新たに友人ができるなんて思ってないし、ちょっとそれはめんどくさい。ここが意外と心地いいからってのもあるけど。
「ほら、もうそろそろチャイムが鳴るから自分の席に戻りなよ」
「あ。王子、めんどくさいから写真で送っておいてよ」
「それで理解できるなら僕は何でもかまわないよ」
「……前言撤回で」
 次は何とかなる現代文。卒業まで続くのかな。



- 1 -

*前次#


ページ: