「おや。菜々さんではありませんか」

千秋くんと買い出しの途中、不意に名前を呼ばれて立ち止まる。
私を呼んだ声の主……七種茨くんは、胡散臭そうな笑顔でこちらに近づいてきた。

「……茨、くん」
「ん?菜々の知り合いか?」

あんまり千秋くんには会わせたくなかったな、なんて思いながら小さく頷く。
茨くんは、なんと言うか……苦手だ。計算づくで動くタイプの茨くんと話していると、手の上で踊らされてる気がして居心地が悪い。

「お初にお目にかかります、自分、七種茨と申します!菜々さんとは仲良くしていただいてまして!」
「おお、そうなのか!俺は」
「流星隊の守沢千秋さんですよね!ええ、存じておりますとも!」

千秋くんの名乗りを遮った茨くんに、千秋くんが一瞬ぽかんとする。
茨くんのペースに巻き込まれているのをひしひしと感じながらも、千秋くんの珍しい表情にふっと気が緩んだ。

「しかし、おふたりはどういうご関係で?仲睦まじそうに歩いていましたな」
「うむ、デートだ!」
「千秋くん!?」

突然の爆弾発言。思わず声を上げた。
だってこれはただの買い出しであって、デートなんてつもりは毛頭なかったのに。
そんな私の様子を見て、茨くんは不敵に笑った。

「デート!そうでしたか。確か菜々さんに恋人は居なかったと認識していたのですが!」
「ああ!これから告白する予定だからな!」

待って。告白予定を本人の前で堂々と告げないで欲しい。
千秋くんを恋愛対象に見たことなんてないし、今は茨くんも居るのに。
ふふん、と胸を張る千秋くんを見て、茨くんはぽんと手を打った。

「なるほど、つまりまだ貴方は菜々さんの恋人ではないのですね!いやぁよかった!実は自分も近々菜々さんに告白しようと思ってまして!」
「はい?」
「なんだと!?」

待って。本当に待って欲しい。
茨くんのこれは冗談、だよね?
展開が突然過ぎて全然ついていけない。
パニックになる私を横目に、茨くんはにっこり笑う。

「しかしこれは今すぐ告白した方が良さそうですね!公衆の面前で告白など、ドラマか漫画の中だけかと思っていましたが!人生何が起こるかわかりませんな!」
「なに!?抜け駆けはいかんぞ!俺の方が先に告白するつもりだったんだからな!」

わーわーと大声で騒ぐ2人に、頭がくらくらする。
千秋くんと茨くんは意外と息があっているのかも知れない……なんて思いながら空を仰いだ。
ああ、今すぐここから逃げ出したい。

- 砂糖、スパイス、それからそれから、



Back Top