しゅわしゅわと炭酸が弾けるのをぼーっと見つめる。
待ち合わせの喫茶店で、このクリームソーダを頼むのが私のお気に入りだ。
緑色のソーダに赤いチェリー、白いアイス。
見た目にもとても可愛いこの組み合わせを考えた人は正直天才だと思う。
彼はこのアイスが溶ける前には来てくれるかなぁなんてぼんやり考えていたら、不意にゆったりと歌うような声に名前を呼ばれた。

「菜々〜」
「……かなたくん?」
かなたくんがこんな所にいるなんて珍しい。
そう告げれば、菜々がいたので〜といつものペースで返された。

「せっかくだから、かなたくんも何か飲む?」
「菜々の「おすすめ」はなんですか?」
「私の?やっぱりクリームソーダかなぁ」

飲みかけのそれを指さしながら答えれば、じゃあぼくもそれにしますとかなたくんが笑った。
店員さんを呼んでクリームソーダを追加する。

「かなたくん、炭酸大丈夫だったっけ」
「そうですね〜、「うみ」にはない「みかく」なので、おもしろくてすきですよ」

うふふ、と笑うかなたくんはいつもより少し楽しそうで。なんだろう、見ていて安心するというか、癒されるというか。

「かなたくん、何かいいことでもあったの?」
「菜々と「おそろい」ですから〜♪」
「……うん?」

少し引っかかって首を傾げる。
かなたくんはさらりと、「すきなひと」と「おそろい」は「うれしい」ですね?と笑う。
いやいやいや、すきなひと、って。

「あんまりからかっちゃダメだよ、かなたくん」
「からかってなんていませんよ?ぼくは菜々のことが「だいすき」ですから」

もちろんらいくじゃなくてらぶのほうです、なんてひらがなで発音されて頭が混乱してくる。
だっていままでそんな素振り全然なかったのに、

「何だそれ、笑えない冗談だな」
「っ、れおくん!?」

ふっと落ちてきた低い声に視線を上げれば、ご機嫌なかなたくんとは対照的に不機嫌そうなれおくんがいた。

「うっちゅ〜☆ 知ってると思うけど、菜々はおれの彼女だから。あんまり揶揄うなよ?」
「しってますよ。でも、あんまり「さみしそう」なかおをさせるなら、ぼくがうばってもいいでしょう?」
「……なんだ、それ」

れおくんがハッとした顔でこちらをみる。
爆弾を落としたかなたくんは自分のクリームソーダを飲み干すと、じゃあぼくはこれで、とその場を去っていった。

「……おまえ、寂しかったのか?」
「えっ……と、かなたくんの気のせいじゃない?べつに寂しくなんて」
「ごめん」
「れおくん?」

ぐっと腕を引かれて抱きしめられる。
人が見てるよ、なんて笑ってみせても、れおくんは力を緩めてくれなかった。

「……おれ、菜々のこと好きだから」
「うん、知ってるよ」
「寂しくさせてたなら、ごめん」
「…………うん」

幼い子をあやすように、優しく背中をさする。
かなたくん、ごめんね。私やっぱり、れおくんをひとりにできないよ。
視界の端に見えたクリームソーダのアイスは、もう全て溶けていた。

- クリームソーダに溶ける



Back Top