離れていくなら壊すから

誰かのための日々樹渉は、いつだって素晴らしい道化者だ。
自分よりも他人の為に生きたがる彼の孤独を、せめて理解したかった。
「……貴女も大概好き物ですねえ」
私の気持ちを吐露すれば、彼はやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「他人の為に生きたいという自分自身がいるのですから、それは自分の為に生きているのと何ら変わりありませんよ。貴女もそうでしょう」
「そう、ですね」
小さく頷く。彼のためになりたくて生きてきた私のほとんどは、彼のために出来ているといって過言ではない。でもそれは、私自らが選んだ生き方だ。
「まぁでも、離れていく時が来たなら、きちんと壊してあげますよ。跡形も残らないくらいに、粉々に」
「渉さん、優しいですよね」
「おや、その評価は心外ですね!私は自分の好き勝手にやっているだけですよ」
あっはっはと笑う彼の真意は汲めない。それでも隣に居たいと思う我儘を、彼はやっぱり受け入れてくれるんだろう。
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