信じられないのはきみの所為

「ん……、」
「おや、起きましたか。おはようございます!」
全身が鉛のように重い。なかば無理やりからだを起こすと、茨の快活な声が遠くで聞こえた。
普段通りの茨はすぐ側までくると、優しく私の頭を撫でて笑う。
「まだ眠っていても良かったんですが。朝食、食べます?」
「……う、ん」
「ああ、喉も枯れてしまっていますね、可哀想に!今すぐ水も持ってきましょう」
良い子で待っていてくださいと茨が傍を離れていくのをぼうっとする頭のまま見送って、再びベッドに沈んだ。……体が、重い。
「……、」
ふと目に入った自らの手首には、鎖が繋がっている。持ち上げればじゃらりと音がした。
「おや、その手錠が気に入りませんか?すみません、急拵えのもので。明日にも菜々さんの気に入る物を用意しますよ」
いつの間に戻ったのか茨は平然と言ってのけ、口移しで水を与えられる。
「いば、ら。こんなことしなくても、私、逃げない、よ」
「おや、どの口がそんなことを?」
「茨、」
「信じられないのは菜々さんのせいですよ。だから甘んじて受け入れてください」
にっこりと言ってのける茨はいつも通りの涼しい顔。私が、彼をこんな風にしてしまったんだろうか。
「ふふ、菜々さんは罪な方ですね!せめてその魅力をばら撒くのは自分の前だけにして頂きたい!」
その為なら自分、何でもやりますよ!と笑う茨の目に曇りはない。……ああ、きっと、私はもう、彼から逃げられない。
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