僕はもっと痛かったよ

「みどり、く……くる、し」
血の気の引いた顔に涙を浮かべる菜々さんが綺麗で、思わず首を絞めていた手をゆるめた。
「っ、かはっ、はぁっ、はぁっ……」
苦しそうに咳き込む菜々さんを見下ろしたまま、そっと涙を拭ってやる。
可哀想な菜々さん。
俺なんかを好きになるから……きっと菜々さんはこれから先も、痛くて苦しいことばっかりだよ。 
「……でも、俺はもっと痛かった」
「みどり、くん?」
「ねえ、何でわかってくれないんすか」
どれだけキツく抱きしめても、菜々さんはすぐ他の人のところに行ってしまう。
俺以外の奴に笑わないで。どこにも行かないでずっと俺だけ見ててよ、ねえ。
「菜々さんが他の人と居るだけで苦しいんです、ここが痛くて張り裂けそうになる」
「泣か、ないで……」
俺に向かって伸ばされた手を思い切りたたき落とした。誰にでも優しい菜々さんが欲しいわけじゃない。俺は、俺だけの菜々さんが欲しいんだ。
「優しくすんなよ!もう嫌だ、菜々さんが好きすぎて辛い、責任とってくださいよ!」
声を荒げれば菜々さんの顔が歪む。
ねえ菜々さん、助けて。こんなに痛くて苦しい感情、知りたくなかった。
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