きみは僕のものだよね?

「ああ、ここにいたんだね」
優しくて柔らかな冷たい声が響いて、びくりと身体が震えた。
こつこつと響く足音から逃げたいけれど、この先は袋小路しかない。大丈夫だ、まだ彼の姿は見えていないしこちらの姿も見えていないはずだと隠れて息を殺した。
どくどくと心臓が嫌な音を立てる。
確実に足音はこちらへ近づいてきて、そして、
「見つけたよ、菜々ちゃん」
「っ……!」
目の前で止まった。
「鬼ごっこは楽しかったかい?」
「あ……わ、たし……」
「でもここまでだよ。まったく、躾のし直しかな」
恐る恐る顔をあげれば、綺麗な笑みを浮かべた彼が立っていた。
「君は僕のものだよね?主の手を勝手に離れるなんて悪い子だ」
「ち、ちが……」
グッと腕を掴まれ立たされる。どこにそんな力があるのかと言うくらいの強さに思わず声をあげれば、歌うように耳元で囁かれた。
「立場を理解していない悪い子にはおしおきが必要だね。それとも、そちらを期待していたのかな」
逃げられない。逃げなくちゃいけないと脳は警鐘を鳴らしているのに身体が言うことをきかない。
「まあ、どちらでも構わないよ。菜々ちゃんは飲み込みが悪いようだけど、ちゃんと菜々ちゃんは僕のものなんだって理解できるまで何度でも教えてあげるからね。安心しなさい」
絶望へとたたき落とす言葉を聞きながら、私の意識はブラックアウトした。
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