「あれ、菜々さん?こんなところでどうしたんですか?」
「紫之くん?久しぶり」
「はい、久しぶりです」
人の少ない空中庭園。
可愛らしい声に名前を呼ばれて振り返れば、愛らしい紫之くんが立っていた。
にっこり笑顔に癒されつつ、ひらひらと手を振る。
「深海さんを見てない?流星隊の」
「えっと、ぼくは見ていないです……深海先輩がどうかしたんですか?」
「今日打合せの約束だったんだけど、時間になっても現れなくて……」
「ぼくをよびましたか〜?」
「って、深海さん!?」
ざぱん、という音とともに現れたのは、探していた深海さんその人だった。
噴水の中で楽しそうにしている。
「……待ち合わせの時間、過ぎてます」
「あれ、そうでしたか?ごめんなさい。ひからびそうになってたので、ふんすいで『ぷかぷか』してました」
「とりあえず噴水から出てもらえます?」
「はい〜」
びしょ濡れの深海さんに苦笑しながら、ハンドタオルを差し出す。
こんなタオルじゃ間に合わないのは百も承知なんだけど。
どうしたものかと途方に暮れていれば、紫之くんがちょんちょんと私の服の裾を引っ張った。
「えっと、ぼく、代わりの服とかとってきましょうか」
「え、いいの?」
「ちょうど今日のお仕事は全部終わったので、空中庭園で『まったり』しようかなって思ってたんです。菜々さんにはいつもお世話になってますし」
「じゃあ、お願いしようかな。ごめんね」
「いえ!すぐにとってきますね」
紫之くん、やっぱりすごくいい子だ。
ほわっと癒しの空気に浸っていれば、後ろから深海さんが抱き着いてきた。
「冷た……っ!深海さん!?びしょ濡れになるのでやめてくださいね!?」
「菜々もぷかぷかすればいいのに〜」
「私は仕事中です!深海さんも!!」
心を鬼にして怒って見せれば、深海さんはむぅ、と頬を膨らませた。
「菜々はぼくといるより、はじめといるほうがたのしそうです。おしごとも、はじめとやればいいんじゃないですか」
「……嫉妬したんですか?」
はあ、とひとつため息を吐く。
一番年上なのは深海さんのはずなのに、まるで逆転したみたいだ。
深海さんとまっすぐに視線を合わせる。
「仕事はちゃんとしてくれないと嫌いになっちゃいますよ、かなたさん」
「それは『いや』です……ごめんなさい」
諭すように名前を呼べば、かなたさんはしょんぼりとした雰囲気で頷く。
いいこいいこ、と頭を撫でて立ち上がった。
「菜々さ〜ん!着替えとかタオルとか、持ってきましたよ〜!」
「紫之くん、ありがとう」
「いえいえ……って、菜々さんもなんだか濡れてませんか?」
「あはは……ちょっとね」
苦笑しながらタオルを受け取って深海さんに渡す。
紫之くんは疑問符を浮かべながらも追及はしてこなくて、本当にいい子だなと思った。