随分涼しくなって過ごしやすくなったとある秋の日。
木陰で寝転ぶ凛月くんが不意に尋ねた。
「悠花はさぁ、自分で小説書いたりしないの?」
「……自分で?」
「うん」
凛月くんにとっては何の気なしの話題だったんだろうそれに、内心ものすごく動揺した。
確かに私は、本を読むのが好きだ。空想や妄想をすることは嫌いじゃない。
自分で小説を書こうとしたことは、なくも、ない。
でも私のそれは完成までこぎつけることすらできなかったし、胸を張って小説を書いたことがあるなんて言えるものじゃなかった。
「う〜ん……私は読むほうが好きだから」
「ふうん?」
逃げるような言葉を選んでしまった私に、凛月くんは興味なさげに相槌を打つ。
この話はここで終わりだろうと息を吐きかけて、次の言葉にフリーズした。
「今年の誕生日プレゼントは、悠花の書いた小説が読みたいなぁ」
「え」
どうしてそうなった。
目を見開く私の膝の上で、凛月くんは楽しそうに笑う。
「去年はたぁっくさん悩ませちゃったしねえ。今年は欲しいものを先に言ってあげようかなって」
「まって凛月くん、私小説なんて」
「悠花の作る話、楽しみだなぁ」
これは、梃子でも動かないモードだ。
優しいふりして我を通そうとするモードの凛月くんだ。
いやでも、誕生日プレゼントに今年も頭を抱えそうだと思っていたのは事実。
欲しいものをピンポイントで指定してくれた分だけ、確かに優しいのかもしれない。でも。
「だめ?」
「が、頑張らせていただきマス」
それでなくても、凛月くんのおねだりに弱いのだ。
誕生日プレゼントにねだられたものを用意できないなんて言いたくなくて、頷く。
かくして私は凛月くんのために小説を書くことになったのだった。