“どうせ親のコネだろう”
“人気が出たのはあいつの実力じゃなくて母親のおかげのくせに”
“俺が必死で掴みとったこの役もお前は母親に頼めば簡単にもらえるもんな”
“大女優の息子はいいよな、何の苦労もせずに仕事もらえて世間から過大評価されるんだから”















* * *

まだ眠気が残るぼんやりとした頭を覚醒させながらスイは徐々に瞼を開く。いつの間にかソファーでうたた寝してしまった身体を起こそうとするが、腹部辺りにふわふわとした綿毛に包まれた小さなポケモンーーーエルフーンが、楽しそうにつぶらな瞳でスイを見つめていた。


「エルフーン…どうりで重いと思ったらお前か」

「エルッ!」

「あだっ!わかった、重いって言ったことは謝るよ。だからちょっとどいてくれ」


ぷくっと頬を膨らませたしかめっ面から一転、エルフーンは楽し気に鳴き声を上げソファーから下りる…と思いきや、身体を起こしたスイの膝の上に(何故か誇らし気に)ちょこんとのりあげた。


「はあ、仕方ないなエルフーンは」

「エルッ!」


スイの手持ちの中で一番小柄であり紅一点のエルフーンは、こうしてよく彼の膝の上にのることが多い。少々わがままでお姫様気質があるがそんなところも可愛いと思うのはトレーナーの性だろう。

ボールが羨ましそうにカタリと動いたのを見て、スイはあとで毛づくろいをしてやるかと小さく笑う。

エルフーンの綿毛をもふもふしながら先ほど見ていた夢をスイはぼんやりと思い返す。

人の顔は靄がかかったように不鮮明だったが、言葉は一語一句覚えている。夢のなかで言われた自分を罵る言葉は、過去に実際にぶつけられたのだから。

スイは、イッシュを代表する大女優の息子だった。
その大女優の背を見て育った息子が母親と同じ演技の道に歩むことは必然だったのかもしれない。

大女優といわれる母親にお膳立てをしてもらえれば、俳優として、スイ個人として歩む人生はまさしく薔薇色だ。

だがスイは母親に頼らず、自分の力だけでデビューを飾り役をもらった。

茨の道を自力で切り開いた故の証。が、まわりは頑なにスイ自身の実力だと認めてはくれなかった。

“どうせ親のコネだろう”

スイを待っていたのは暖かい歓迎ではなく冷えた罵りだったが、俳優の道へ進むと決めた時からまわりの否定の言葉や視線は全て覚悟の上だった。

陰口に耳を傾けている暇があったら演技力を磨く。

そう心に決めていたスイはただひたすらに練習を重ねた。時間の許す限り身を費やし時には身体が不調を訴えるのを無視して動き続け、ついには倒れることもあった。それでもまわりに自分自身の実力でこの世界にきたことを証明するため、何を言われようが演技力を磨くことに全力を注いだ。

そんなスイをまわりはようやく徐々に認めはじめた。それでも、母親が大女優というある意味ハンデを背負っていたこと、嫉妬ゆえに頑なにスイを受け入れない周囲を認めさせるには並大抵の努力ではなかった。

スイを一番近くで応援し支え続けていた幼なじみのカミツレ、ノボリ、クダリ、そして自身の手持ちたちがいたからこそ挫けずに俳優として

スイがデビューし初めて表舞台に立ったとき、自分のことのように喜んでいた大切な幼なじみとパートナーたちのことはまるで昨日のように鮮明に思い出される。


「…いろいろあったなあ」


スイの膝の上にのっているエルフーンは不思議そうに主人を見上げ、そんなエルフーンをスイはなんでもないと小さく笑いながら頭を撫でる。


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