エルキドゥの姿を模した男、キングゥの諫言により魔獣の女王───ゴルゴーンは退いていったが、襲撃は日を改め十日後だと言っていた。であれは、僅かな時間も無駄にはできない。王宮に戻ろうと足を進めようとすれば、突然後ろから俺の名を呼ぶ声。

「…立香殿?」

驚き振り向けば、「ここにいたんだ」と立香殿が後ろに立っている。

「む、俺を探していたのか?すまない、手間をかけてしまったな」
「ううん、姿が見えなかったからちょっと気になって。俺の方こそごめん、邪魔しちゃったかな」
「…いや、今しがた済んだところだ」

ゆっくりと首を振ればそっか、と立香殿は笑う。

(…身体の傷も、心の傷も、癒えていないだろうに)

「…人類最後のマスターというのは、難儀なものだな」
「…?うん、まあね」
「立香殿」

草薙の剣を力強く握り締め、立香殿に向き直る。戦友が、最期に託した希望。

「我が名は日出づる国の英霊、日本武尊。ウルクのギルガメッシュ王に召喚されたサーヴァントであるが、この身と草薙の剣は人類最後のマスターの藤丸立香、其方の力にもなることを誓おう」
「───ありがとう、タケル」

礼を述べ、小さく笑った立香殿に俺も笑んでみせる。

レオニダス殿と牛若丸殿、そして弁慶───いや、常陸坊海尊殿の離脱。あちらとの戦力の差は火を見るより明らか。それでも、託された願いがある限り英霊としての役目を果たすだけだ。

王宮に戻ろうかと立香殿が歩き出し、俺も彼の後に続く。

人類最後のマスターは何に代えても守らなければならない。決意を固めるよう、再度力強く、草薙の剣を握った。



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