それまで穏やかだった風が突然機嫌を損ねたように、肌を刺すような冬の強風が吹き荒れる。あまりの強さだったから思わず目を瞑り、風が止んだのと同時にゆっくり開く。

ぼんやりとした視界に映ったのは、私とあの人と同じ漆黒の髪、そして何より、あの子を象徴する他の誰でもないあの色彩は───…

「!ミカ────…!!」

声にならない声を出して思わず走り出す。そのせいで何人かにぶつかってしまったけれど謝る余裕なんて今の私にはない。

「待って!!お願い!!」

離れていってしまう。私があの子をおいて組織から逃亡したとき、あの子は今の私のように、いいえ、私以上にこんなにも身を裂かれるような思いを抱かせてしまったのかと視界が滲むのを唇を噛むことで耐える。

「!いっ、った……」

ヒールが折れたことで足を捻ったのだろうか。そんなことはどうでもいい。あの子の痛みに比べればこんなのは大したことない。

転んだ拍子に脱げてしまったパンプスをそのままに走り出そうとするけど、あの色彩はもうどこにもいない。ただ惨めな自分だけがいるだけだ。

「プラー…」
「マイ…」

心配してくれるように私にすり寄る二匹の頭を撫でる。今更ながらじくじくと捻った足が痛む。通行の邪魔だから早く立ち上がらなければいけないと思うけれど、痛みが邪魔をして中々立ち上がることができない。

「大丈夫ですか?」

ふいに掛けられた声とハンカチが握られ差し伸べられた手にゆっくり顔を上げる。

リーフィアを連れた和服に身を包んだ綺麗な男の人が色素の薄い髪が夕暮れに照らされ、彼の若緑色の瞳には情けない顔をした私が映っている。

「ええ…ありがとう。大丈夫よ」
「おや、靴が壊れてしまっている…。これでは歩くのも難しいでしょう」

そう言うと、ボールのスイッチを押して現れたのは大きな体躯とは裏腹に静かに佇むウインディ。自分達よりも一回りどころか二回り以上大きいポケモンの登場にプラスルとマイナンは驚いて私の背に隠れる。

「おや、驚かせてしまったね。ふふ、彼は見た目に反して物静かな性格だから怖がらなくともいいんだよ」

男の人の言葉に二匹はおずおずと私の背から顔を出し、ウインディを窺う。

「ここから私の家が近いのでそこで手当しましょう。ウインディ、この女性を乗せておくれ」
「そんな、そこまでしていただくわけにはいかないわ。私は大丈夫だから…」
「怪我を理由に初対面の女性を家に招く男は信用に足りませんか?」

そんなこと、と否定の言葉を紡ごうとすれば痛みで顔をしかめてしまう。男の人がウインディを呼べばゆっくり姿勢を低くする。乗れ、ということだろうか。

男の人が失礼、と断りを入れてから私を軽々と抱き上げウインディの背にそっと乗せてくれる。

「あ、ありがとう…。ごめんなさい、迷惑かけて」
「ふふ、私が勝手にしているだけなので貴女が気に病むことは何もありませんよ」

ウインディにもお礼を言えば気にするなというように鳴く。暖かいその身体を撫でれば、ゆっくりと尻尾を振る。

様々な色鮮やかな着物が並ぶお店───呉服屋の前で男の人が立ち止まる。不思議そうな顔をしている私に気付いたのか、男の人は「私の店なんです」と綺麗に微笑む。

少し待っていてくださいと椅子に座らされ、言葉通り



深淵が手を伸ばす

周囲は白一色で彩られた世界だというのに、

ウインディが心配するように私にすり寄るも、凍えるような風の冷たさが肌を刺すばかりだった

「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。」

終焉のはじまりを告げる
終焉が続く未来


戦わずして敗北

生まれながらに暗翳が差すこちら側に

随分と主観的な持論を仰る。

砂上の楼閣

見聞を広める




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