鋭い電撃がまるで意思を持ったように少年は逹を襲う。それをプテラは持ち前のスピードを生かして避け、ミカゲは二匹に指示を出していく。

左右に、斜めに。果ては旋回まで。並みのトレーナーであればしがみつくのに必死で指示どころではなく、それどころか振り落とされてしまうだろう。だが、彼の鍛えられた体幹の前には何の問題もない。

「ブラッキー!“あやしいひかり”!プテラは広範囲に“いわなだれ”!」

相手を惑わし混乱させるための怪光がふよふよとサンダーの周囲ををぐるぐると回るも、サンダーは鬱陶しいといわんばかりに電気ショックを放ちかき消させる。サンダーの気があやしいひかりに向いている隙に、プテラは指示通りサンダーの真上に広範囲に大小様々な多数の岩を雪崩のように落とす。

サンダーのほうでんである程度の岩は砕かれてしまうが、ダメージを与えたのは事実。

サンダーは反撃に身体から四方に電気を放出する。先程と同様の技、“ほうでん”だ。

「プテラ!“たつまき”!ブラッキー!竜巻に“サイコキネシス”を打て!」

プテラが起こした竜巻にブラッキーがサイコキネシスを打てば念力波を巻き込んだ強大な竜巻が発生する。

サンダーの放ったほうでんと、プテラとブラッキー、二匹の技が合わさった竜巻。

さすがにほうでんだけでは押し負けると思ったのか、サンダーは追撃に10万ボルトを放つ。

ぶつかりあう竜巻、電撃。

大きな爆発を生み煙が巻き起こる。視界を良好にするためサンダーは翼をはためかせ煙を払えば、プテラとブラッキー、それに少年の姿はいない。

「ブラッキー!今だ!“ふいうち”!」

上から鋭くとんだのは少年の指示の声。先程の煙に紛れサンダーよりも上空に滞空し、真上から勢いよくブラッキーが落下速度を利用しサンダーに痛烈な一撃を与える。

サンダーにダメージを与えたブラッキーは自身の纏う身体の色のような夜空へとそのまま落ちていく……はずなく。プテラを滑翔させブラッキーは軽やかに着地する。

事前に“のろい”で攻撃力を上げ、更には落下速度をも利用した“ふいうち”の威力は絶大。

一撃を加えたとはいえ慢心は決してしない。一瞬の気の緩みが敗北、そして死に繋がるからだ。

サンダーはほうでん、そして10万ボルトと放つ。

縦横無尽なほうでんに加え、鋭い電撃の10万ボルト。電撃が頬を掠め焦がすもミカゲは気にも留めない。

「ッブラッキー、“まもる”!プテラ、“りゅうのはどう”!」

ブラッキーは守りに転じ、プテラは攻撃を。

ブラッキーの“まもる”でサンダーの強烈な電撃を防ぐが、全てではない。

枝分かれたしたほうでんの一撃がプテラの翼に命中し、苦痛に呻く。

「プテラ、大丈夫か?」

サンダーの攻撃を避け続ける緊張感のなか溜まる疲労、先の一撃でのダメージ。

それでも、プテラの闘志は一片も欠けていない。

ミカゲの案ずる言葉にプテラは肯定の意を込め、吼える。

プテラの意志を感じ取り、その首筋をそっと撫でミカゲは口角をあげる。

今度こそ少年もろともプテラを電撃で撃ち落とそうと、サンダーは次の攻撃をと挙動をみせる──…が。

瞬間、サンダーを襲ったのは強力な念動力。

一体いつ技を放ったのか?

ブラッキーとプテラ、二匹のどちらも技を放つ挙動をみせた様子はない。

恐らく先の竜巻と電撃がぶつかり合い爆発が生まれ、煙で視界が遮られたあの時に技を放ったのだろう。

エスパータイプの技、タイムラグがある攻撃。

「…“みらいよち”」

夜の闇に紛れそうな少年の漆黒の髪が風に揺れる。

「一気に畳み掛けるぞ!ブラッキー!プテラ!」

に、と口角を上げ好機とばかりに右手を掲げ二匹に其々指示を。

サンダーは動じない。伝説は、変わらず威風堂々たる姿。

「ギャアアアアアアアアオ!!」

「ッ、……!?」

耳をつんざくような咆哮にミカゲはおろか、技を放つ寸前だった二匹も驚き不発となってしまう。

僅かに感じるのはなんともいえない、ある自然現象の際に発生する化学物質の“におい”。

空気は湿りを帯びぽたりと一滴の雫がミカゲの頬に落ちると同時、悪寒が全身を駆け巡り確信を持つ。

「ッ、ブラッキー!“まもる”──…!!」

ブラッキーが主人の指示通り無効化するバリアを張るより速く、天候が雨の状態では必中となった全てを穿つような耳をつんざく雷鳴───…“雷”が少年達に直撃する。

が、直撃したのはプテラのみ。寸前で身体を勢いよく捻らせ主人とブラッキーを振り落とす。

雷、それも伝説が放つ技であれば直撃すれば人間など即死。

だが、不幸中の幸いというべきか地上には生い茂る森林。落下の衝撃を森林がクッションとなり、ある程度は和らげてくれる。

ミカゲが自身の背にのっていたら雷の直撃は免れない。故に当たるその寸前、一縷の望みに賭けて振り落としたのだ。

しかし何百メートルの上空から落ち、更にミカゲは怪我を負っているというのに命が助かる可能性は極めて低い。

だが、それでもプテラは賭ける。

主人を守るために、その身を犠牲にしたのだ。

「悪い、プテラ…!!」

夜の闇へと落とされたミカゲはプテラの意図を悟り、自分とブラッキーを庇ってくれた力無く墜ちていくプテラに労りの声を掛け、ブラッキーも同様に安全圏のボールへと戻す。

鳴り止まない残響はまるで周囲に恐怖を与えるよう。

サンダーはバチバチと音を鳴らし、落下する少年を追撃するわけでもなくただ見据える。

カントー地方で伝説と謂われるファイヤー、フリーザーサンダー。その中で最も気性が荒いといわれるのがサンダーだ。

だが、いくら気性が荒いとはいえ無闇に人を襲ったりはしない。

少年達を強者と感じ取り退屈凌ぎに戦いを挑んだのか。──…それとも、幾多の生物の命を奪った少年への制裁か。

伝説の真意は知るよしもない。

興味をなくしたように少年をただ一瞥し、サンダーは住処である雷雲へと戻っていく。

雷鳴は、未だに鳴り止まない。




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