ヒュウ兄がプラズマ団と対峙するとき、いつもと違う雰囲気、静かに彼らを威圧するその姿に正直怖いとさえ思っていた。けれど怒りを露わに、けれど哀しみを堪えているような表情をしているのがずっと気になっていたのも事実だった。理由を訊きたくてもヒュウ兄はいつだって私の前を走っていって追いつけない。いつも一人で前だけを見据えて走るその背を私は何度見つめるただろうか。


『…5年前妹さ、プレゼントされたチョロネコをプラズマ団に奪われたんだ』


ヒュウ兄が自分の過去を話したとき、私は何も言えなかった。辛そうに眉を寄せ、拳を握り過去の自分を悔やんでいるヒュウ兄に何が言えただろうか。

大丈夫、きっと見つかるよ。そんなありきたりな言葉でヒュウ兄を慰めることはしたくなかった。

大切な妹のポケモンが奪われる様を何もできず、ただ見ていることしかできなかったヒュウ兄に、関係ない私が軽々しく根拠のない安易な言葉をかけることなんてできない。

(ーーーヒュウ兄は、ずっと一人で)

自分のせいだと責めて、十字架のように五年前の事を背負っていたの?


「一人で背負わないでよ……」


虚しく呟かれた言葉は空に溶け込んでいく。どうして。どうして一人で背負いこむの。


「ジャノビー…ごめんね。ポケモンセンターへ行こうか」


野生ポケモンと戦っていたジャノビーは返事をする代わりに私の頬に顔をすり寄せる。切れ長の赤い瞳は私を心配するようにじっと見つめ、腰につけているボールもかたりと揺れている。


「…みんな、ありがとう。心配かけてごめんね」


大切なパートナーの温もり。五つのボールから伝わる暖かさ。

私は、この子たちと一緒にいたい。失いたくない。


「…私ね、今までプラズマ団を他人事のように感じていた」


ざ、と風が吹く。目を閉じればプラズマ団との戦いが浮かぶ。

旅の先々でプラズマ団とバトルをするとき、ただ漠然と戦っていた。ぼんやりと


「けど、今は違う。私はプラズマ団を許さない。トレーナーとポケモンを無理やり引き離して悲しむ人たちをこれ以上増やしたくない!」

もう


「ーーーみんな」

「私と一緒に戦ってくれる?」


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