成る程、と今更ながら合点がいく。自分が閻魔亭に喚ばれた理由。そして、あの三人に抱いていた微かな違和感の正体も。

「猿長者が二人……!?いえ、竹取の翁が猿長者だったのですか!?」
「この者はお伽噺の住人。弱者をいたぶり、笑い、食い物にする、お伽噺の悪役にして、正体のない物の怪。竹取の翁を名乗っていたあの猿面はおそらく───」

巴御前の言葉に清姫はいいえ、と否定する。ソレの在り方は紅閻魔と同じだと語れば、立香は導き出された問いの答えに気付いたようで。

「さるかに合戦の……!」

自身の正体を看破された猿長者は蛇庄屋、虎名主に声を掛ける。融合し、それは黒い靄から徐々に一つの存在に形作られていく。

「あの二人も同類だったのか!?猿の面に……虎の体に……蛇の尾……だと?」
「はじめから三つに分かれて閻魔亭に入り込んでいたのでしょう」
「猿、蛇、虎。───思えば、最初から手掛かりは提示されていたのだな。俺がどういった縁で閻魔亭に召喚されたのか疑問だったが……ふむ、このような縁なら道理が通る」

何の話だ?と玉藻の前と熾月の言葉にゴルドルフは疑問符を浮かべている。極東の出身ではない彼にとって、アレの存在は馴染みがないのだろう。

「……恨み募って正体無くし、性根爛れて夜の鳥」
「凶鳥と忌まわれし、怨念抱く異形の物の怪」

俵さんや頼光さんがいらっしゃらなかったのは、アナタが必死に妨害していたからなんでしょうねぇと、玉藻は眉を寄せ美しい顔を歪めて目の前の敵を睨みつける。

「テメェとオレのどこが違うってんだ!同じ化け物だろうがよ、アア!?今さら善人面したところで本性は変わらねぇよ!」

不気味な鳴き声を上げながらガラスを割り、窓から出て猿面の怪異が目指すその行き先は───奉納殿。後を追い、立香達も奉納殿に急ぐ。

待ち構えていたのは耳を塞ぎたくなるような不快な鳴き声を発する、禍々しい一匹の物の怪。

「正気を引き裂く、この世のものではない魔鳥の叫───まさしく、古事記にいう」

「「───鵺」」

巴御前と熾月、二人の声が重なる。

───鵺。平安時代に出現したとされるあやかしだが、目の前にいる物の怪とは別だろう。

ついぞ現れたその正体に巴御前、ディルムッド、玉藻の前、そして熾月、紅閻魔。各々戦闘に備え、霊基を変質させ武器を構える。

何が楽しいのか再度不気味な鳴き声を発し───猿の面越しにゆらりと熾月を捉える。

「半端みてぇだがテメェも俺と同じ存在だよなあ!?テメェこそ俺と同じ化け物だろうがよ!」

この身に流れる血。彼の父親である



「ああ、そうだな。俺も貴様と同類であろうよ」
「…、熾月殿」

巴御前が何かを言いたそうに彼の名前を静かに呼ぶ。が、熾月はそれに答えず

「───だが、貴様がある種の触媒となり、俺がこの場所に喚ばれた。であれば、曲がりなりにも役目を果たさぬわけにはいかないだろう。それに、貴様如きが父上と同じ種族を語るのは───虫酸が走る」
「テメェ!ふざけんな!俺と同類のくせによぉ!!」
「無駄話がすぎたな。そろそろ冥土に逝く刻であろう」

丁度、閻魔の代理官がいることだしな。

淡い金の瞳を鵺から閻魔亭の女将に向ければ、静かに全ての元凶を見据えている。最期の情けとばかりに何故このような事態を引き起こしたのか問うも、復讐などという思想はなく、それは意味を成さない問い掛けで。

「鬼の強面も震え出す、刹那無影の雀の一刺し───閻雀抜刀術、冥土の土産に味わっていけ!」

最後の大物詰めを前に閻魔亭を守る勇ましい女将の声が、奉納殿に凛と響いた。



そう叫んだと同時、突然部屋が暗闇に包まれる。
奉納殿を壊すつもりだろう!と焦燥したフィンに立香は急ごうと一行に声を掛け、奉納殿まで急ぐ。
口汚くそう罵る目の前の同族を熾月はただ黙って淡い金の瞳に映し、ゆっくりと口を開く。

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