「は、なせ!」

髪を強く掴まれ、痛みと恐怖を堪えながらも目の前の男を見上げた、先。

「へえ、そこら辺の女よりずっと綺麗な顔をしているな」

夜空のような深い闇色の髪、つり上がった目。唯一違うのは瞳の色か。ーーー男はよく知る友人と同じ色彩、顔立ちをしていた。青年を無遠慮に眺めていた男は満足したのか真白い髪からするりと手を離す。その拍子に何本か自身の髪が抜けたのが視界に入ったがどうでもいい。

「…あんた、まさか、ミカゲの、」

友人の名を震えながら呟くように溢せば男は肯定するように口角をあげる。

「息子が世話になっているようだから挨拶にきたんだ」
「はっ、だったら菓子折りの一つや二つ持ってこいよ」

真っ直ぐに男を睨みながら嘲笑するも頭は混乱でうまく思考が働かない。いや、現実を受け止めたくないだけか。
この暴力的な男と、彼が親子だなんて。

「そんなに必死に虚勢をはって、」

首筋にひやりとした感覚。男の昏く深い紫の目が青年を捉えて離さない。

「俺が怖いか?」

この場にいるのは補食する側と、される側。男の手がゆっくり下降をし青年の細く白い首筋をつう、と撫でる。

「…さわんな」

ぐ、と青年が男の手首を掴む。普段は柔らかく温かな花葉色の瞳は、今は鋭く細められている。そこらの女よりもずっと整った容姿、華奢な体躯。少し乱暴に扱えば怯えて簡単に屈すると思っていたがどうやら見当違いだったらしい。そして沸き上がるのはーーー征服欲。

「そう反抗的な目をしているとどうにも屈服させたくなるな」
「…悪趣味」
「俺と血を分けたアイツもそうさ」
「血の繋がりがあるから何?長年一緒にいる俺にはわかる。ミカゲは、あんたなんかと絶対に違う」
「医者なのに随分と非論理的なことを言うんだな」

男はふんと鼻で笑い、昏い紫の目にツバキを映す。 どこまでも深い雪原を思わせる髪色と肌とは対照的に、明るい花葉色の瞳。そして、自分に屈せず真っ直ぐこちらを見据えるその様。希望をことごとくへし折り、絶望だけを突き付ければその端麗な顔を歪めることだろう。

「…楽しみだ」

男の零した言葉にツバキは眉を寄せる。何が“楽しみ”なのか。ただ、男の垣間見えた歪んだ欲望に冷水をかけられたように背筋がひやりとした感覚が駆け巡り

「近い内にまた来る。そうだな、今度はお前の言う通り菓子折りの一つや二つ持ってこよう」
「二度と来んな。こっちはあんたの顔なんて見たくねえんだよ」

ツバキの剣呑な言葉と視線も男は意に介さず、一瞥し白衣を翻し出ていく。バタンとドアが閉まる音と共に張り詰めていた緊張感の糸が切れ、ツバキは息を吐く。触られた箇所が



ミカゲの傷あとを見るツバキ、物思いにふけるR団時代ミカゲ、モブから見た親子

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