「…なんだ?」

辺りを包むのは夜の闇。日がすっかり落ち空が暗いのは当たり前だが、それよりも更に色を落としたような空の色。

突如感じた得体の知れない“何か”にミカゲも、ブラッキーも、プテラも。一人と二匹は否応なしに警戒する。

“何か”を暗示するような黒雲。それらが彼らの行く手を阻むように浮かんでいる。

ミカゲは切れ長の桔梗色の目に警戒の色を強め、ブラッキーは耳と尻尾をピンと立て、プテラは主人逹を落とさないよう気を付けながら速度を速めて滞空を続け。

ボールに入っているポケモン逹も外の異様な雰囲気を悟ったのだろう、かたりと震える。

────…雲間から音が鳴る。それは、ある自然現象の一環。

だが、そうではないことをミカゲは瞬時に悟る。予感、いや、確信。

鳴り響く不穏な音は“合図”なのだと。

五感を極限にまで研ぎ澄ます。

まるで時が止まったかのような静寂。自分の心臓の音がうるさいほどに聴こえる。

空を飛んでいたはずの鳥ポケモンはいつの間にかいない。それほどまでの脅威である、存在。

─────…バチ。

瞬きするほどの一瞬、閃光が走る。常人ならば見逃してしまうか細い輝きだが、怜悧な瞳は確りと捉える。

そして。

「ップテラ!横に避けろ!!」

ミカゲの切羽詰まった叫びに反応してプテラが横に回避した瞬間、鼓膜が破れるほどの轟音と目が眩む目映い閃光。

……地上は、恐らく穴が穿かれているだろう。

雲の上から巨大な稲妻を落としながら現れるという、その伝説の名は。

「サンダー…!!」

未だに視界が眩むなか、ミカゲはその姿をしかと見据える。

あと0.1秒でも指示が遅ければ先の稲妻で仲良く消し炭となっていただろう。

それすらの技を放つ速度。それすらの、威力。

バチバチと電気を纏わせているその威風堂々した姿は、こんな命の危機を感じる状況でなければ見惚れていただろう。

「…大人しく通してくれそうにはねえな」

思わぬ伝説の急襲。その信じ難い光景にミカゲは乾いた笑みを浮かべる。

タイミングが悪いにもほどがありすぎる。そう愚痴を溢したとしても、相手は身を退くはずはない。

空中という不安定な戦闘フィールド。更に、電気タイプが弱点であるプテラ。

電気に耐性があるニドキングを出したいところだが、先にも述べた通りここは空中。故にプテラの背にのったまま戦闘しなければならない。ニドキングを出せば一人と一匹をのせているプテラが重さに耐えきれず地上へと真っ逆さま。

思考は一秒にも満たない。

二匹は主人を守るため既に臨戦態勢。切れ長の桔梗色は伝説を前にしても臆さない。

「…ようやくこれからなんだよ」

組織にいた頃とは無縁だった未来、自由を掴み取り。

彼のリスタートは、これからだというのに。

「伝説だろうがなんだろうが関係ねえ。…邪魔すんな」

主人に同意するように二匹が吼える。

サンダーもその身に電気を纏わせ、明確に攻撃の意思を持っている。

……バチ、バチリ。

即時、放たれる鋭い電撃が彼らを襲う!!

「ブラッキー、“あくのはどう”!プテラは“ストーンエッジ”!」

サンダーの10万ボルトをブラッキーのあくのはどうで相殺させ、息つく暇もなくサンダーの弱点であるプテラのストーンエッジをぶつける。

サンダーがバチバチと音を鳴らしながら煙の中から姿を現す。動きが機敏なところを見るにプテラのストーンエッジは不発。

技を相殺し、煙が巻き起こり視界が悪いはずの中での奇襲。それを難なく避けたサンダーは間違いなく伝説の名に違わない実力。

無論、ミカゲも、ブラッキーも、プテラもやったかなどは微塵も思っていない。

むしろこれが始まりだ。

全く予期せぬ伝説の急襲。

だが、彼らは怯まない。確固たる強い意志で無謀にも立ち向かう。

命を賭した戦いの幕が、開かれる。



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