※下積み時代の話



先輩に殴られたという傷は酷く痛そうで今までどうして黙っていたのか怒りたくなったけど、スイのことだからきっと心配かけたくなかったんだろう。いつだって私たちを案じる彼は、自分のことは二の次だから。

それでもやっぱり黙っていたことに腹が立ったので、ガーゼを少し乱暴に貼れば痛そうに顔を歪めた。

「…もう少し優しく貼ってくれればなあ」

「あら、何か言った?」

手に持っている消毒液をちらつかせるように言えばなんでもないと顔を引きつらせながら横に振る。

道具をしまっていればスイが立ち上がる気配がし、私は思わず手を止めて見上げた。

「…もう行くの?」

「傷もカミツレが手当てしてくれたおかげで痛まないし。俺は大丈夫だからさ」

ありがとう。そう言って笑うけれど、痕が残るほど殴られて、言わないけれど服が汚れているのを見るに多分身体にも傷跡があるんだろう。

(…大丈夫、だなんて)

ねえ、その言葉は、本当に、


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